『スタッフロール』深緑野分2022-08-18

2022年8月18日 當山日出夫

スタッフロール

深緑野分.『スタッフロール』.文藝春秋.2022
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163915180

深緑野分は、これまでに、『戦場のコックたち』『ベルリンは晴れているか』を読んだ。

やまもも書斎記 2022年5月13日
『戦場のコックたち』深緑野分/創元推理文庫
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2022/05/13/9490075

やまもも書斎記 2022年4月15日
『ベルリンは晴れているか』深緑野分/ちくま文庫

このせいもあって、深緑野分というとミステリ作家というイメージが強いのだが、この作品はミステリというジャンルには入らない。映画の特殊撮影の話しである。

今度の直木賞候補作ということもあるが、読んでおくことにした。(追記、結局、この作品は受賞を逃したのだが。)

これは傑作である。いろいろ思うことはあるが、二つぐらい書いておく。

第一に、映画の小説として。

第二次大戦後から現代までの映画の物語である。それも、特殊撮影の技法についてのこと。まさに、全編これ映画小説と言ってもいいだろう。『2001年宇宙の旅』『エイリアン』『スターウォーズ』など多くの作品も登場する。

ただ、私は、このところ映画をほとんど見ない。見るといっても昔の映画をテレビで放送するのをたまに見るぐらいである。映画館は、もう何年も、いや何十年にもなるかもしれない、行っていない。でも、若いころは、よく映画には行ったものである。

特殊効果撮影というテクニカルなことにかかわる人びとの話であるが、しかし、全体としてとにかく映画というものの魅力に溢れている。まず、このことが強く印象に残る。もし、映画小説というジャンルを考えてみるならば、これからこの作品がまず思い浮かぶことだろう。

第二に、クリエイタということ。

映画の特殊撮影にかかわる人びとの話であるが、これもクリエイタである。ものを作る仕事である。このものを創造していく、作っていくということの、喜びと悩みをこの作品はあますところなく描いている。

これは、映画に限らない。どの分野、ジャンルについて言えることである。ものを作ることの喜びと悩みを描いた作品として、これは普遍的なところを描ききっている。ただの映画の技術の問題にとどまっていない。

以上の二つのことをとりあえず思ってみる。

ところで、この作品は、直木賞候補ということになっている。(予想としては、たぶん、受賞になるだろうと思うが。追記、この予想は外れたことになる。)

著者の深緑野分という名前は、直木賞の歴史のなかに名を刻むことになるだろう。まさに、映画のスタッフロールに名前が出るようなものである。ものを作る……それが、映画であれ、小説であれ……それにかかわった人間として名前が残ることは、確かに大きな喜びといっていいだろう。(そうではなく、そんなことはどうでもいいという価値観もあるかもしれないが。)

また、SF映画のみならず、普通の映画でも、特殊撮影やCG、これは本当のことなのだろうか。素朴なリアリズムの感覚からすると、嘘になる。しかし、映画としては、そこに表現がある。表現があって、そこに使われる映像であるならば、どのような嘘は許容されることになるのか。この問いかけもある。

この作品は、この「虚」の世界に価値を見出す観点で書かれている。だが、その一方で、素朴なリアリズムの感覚も、映像を見るときには必要なものであるとも、私は強く思うところがある。素朴なリアリズムの感覚に訴えるところがあってこその、CGとしての虚の表現があるのだろう。表現における虚実の問題について、この作品は、いろいろと考えるところのある小説である。

2022年6月21日記