『はじめての王朝文化辞典』川村裕子(著)・早川圭子(絵)/角川ソフィア文庫2022-09-03

2022年9月3日 當山日出夫

はじめての王朝文化辞典

川村裕子(著).早川圭子(絵).『はじめての王朝文化辞典』(角川ソフィア文庫).KADOKAWA.2022
https://www.kadokawa.co.jp/product/321611000839/

だいたいは知っていることなのだが、新しく出た本ということで読んでみた。時期的には、タイムリーな出版になるのかとも思う。次の次のNHKの大河ドラマが、『光る君へ』ということで、紫式部が主人公になるらしい。平安王朝文化、文学について、いろいろ興味のあるところである。

だが、この本自身は、特にそれを意識して作ったということではないようだ。巻末の参考文献リストを見ると、二〇二一年八月で切ってある。この時期に基本の執筆を終えているということになる。(そのせいなので、例えば岩波文庫の『源氏物語』が完結したものとして上がっていない。これは、今では、全巻完結している。)

だいたい知っていることが、辞典風に、あるいは、軽い読み物風に、テーマごとに整理して書いてある。そんなに踏み込んだ詳細な考証ということはない。気軽に読めるように書いてある。とはいえ、学問的には、基本の水準を守っている。諸説ある事項にかんしては、その旨断ってある。

あつかってあるのは、平安朝貴族のうちでも、上級に属する人びとの日常生活と言っていいだろう。すくなくとも受領層以上の貴族ということにはなる。具体的には、作品名としては『源氏物語』『枕草子』『蜻蛉日記』『和泉式部日記』などが、取り上げられている。天皇にかんすること、また、下級の貴族については、あまり触れるところがない。これは、あげたような王朝文学作品を理解するうえで必要な事項であり、その視点から編集、執筆してあるということだと思う。

軽い読み物風に書いてあるのだが、読んで面白い。だいたい知っていることが多いとはいえ、なかには、新知見というものもいくつかある。

一つには、知識の整理ということで役に立つ。

さらには、平安王朝文学についての解説として面白い。(ところどころ、作品の内容に踏み込んで解説してあるところがある。)

ただ、不満を言えばであるが……王朝文学と言っても、いわゆる女房文学がメインであって、漢詩文や仏教のことについては、あまり触れるところがない。また、主に、女房、女性の視点で解説されることが多い。王朝文学についての辞典ということで編集するとなると、これはこれで一つの方針であろうとは思う。

この一冊で、平安貴族の生活のすべてを網羅するというところまではいかないが、しかし、主な平安文学(主として仮名文学作品)を読むための基本的な予備知識の整理という観点からは、よくできている本だと思う。

2022年9月2日記