『右大臣実朝 他一篇』太宰治/岩波文庫2022-09-10

2022年9月10日 當山日出夫

右大臣実朝

太宰治.『右大臣実朝 他一篇』(岩波文庫).岩波書店.2022
https://www.iwanami.co.jp/book/b609317.html

「右大臣実朝」は、すこし前に新潮文庫版で読んだ。若いときにも読んでいる。岩波文庫で新しいのが出たので、これでも読んでみることにした。

たまたま、NHKで『鎌倉殿の13人』をやっている。これは毎週見ている。ちょうど今、登場人物としては、実朝が鎌倉殿として登場してきたあたりである。

読みかえしてみての印象としては、はっきり言って、ドラマを見ているせいで分かりやすい。なるほど、それぞれの人物関係はこうなっているのか、というところがよく分かる。そして、この岩波文庫版の特色としては、巻末に作品内の登場人物の一覧と簡単な説明がついている。これを見ながら読むと、なるほど、この名称で出てきている人物は、この人なのか、よく理解できる。

といって、ドラマと小説は別であることはもちろんである。そのことは理解したうえで読んだことになるのだが、それでも、時代背景については、よりよく理解できると言っていいだろうか。

解説によると、太宰治は、この作品をかなり熱をこめて書いたらしい。そして、この作品は、この時代(戦時中)の歴史的、社会的、思想的、諸々の背景を考えて読まなければならないことがわかる。実朝という人物、あるいは、その歌が、近代日本においてどのように理解されてきたのか、ここのところが一つの重要な視点になってくる。ここは、ただ、現代の目で実朝の歌を読めばよいというものではない。

太宰治の書いた小説であるから、これはこれとして一つの文学作品として読めばよい。そして、十分に面白い。しかし、その一方で、この小説の書かれた時代の流れというものに思いをはせると、これはこれで、いろいろと考えるところがある。実朝という人間が、どのように近代になってから文学に描かれてきたのか、あるいは、ドラマで描かれてきたのか、ここのところも面白いテーマの一つになる。

2022年9月6日記