『シンプルな情熱』アニー・エルノー/堀茂樹(訳)2022-10-21

2022年10月21日 當山日出夫

シンプルな情熱

アニー・エルノー.堀茂樹(訳).『シンプルな情熱』(ハヤカワepi文庫).早川書房.2002(早川書房.1993)
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/310020.html

今年(二〇二二)のノーベル文学賞ということで読んでみることにした。フランスでは、ベストセラーになった作品であるらしい。

そう長くない作品である。一息に読んでしまった。読んでいて、思わず、その作品のなかに入りこんでしまう。全編、一人称の語りであり、語られるのは、ある男性との恋である。どうもこの恋は、不倫といっていい関係のようである。それが、延々と語られる。特に波瀾万丈の展開があるという小説ではないのであるが、その作品世界のなかにひたることになる。

ただひたすら恋心を語った作品でありながら、時代と切り結ぶところがある。時代背景としては、ベルリンの壁の崩壊のころのことになる。世界の歴史の激動の時代である。そう多く言及があるということではないのだが、この時代背景をふまえて、それでもなお恋心について語るこの小説は、ある種の迫力がある。

このところ、ノーベル文学賞というと、ちょっと政治的な雰囲気があったりもするのだが、この受賞は、純然と文学への評価という印象を持つことになる。文学が人を魅了するものであり、そして同時に、生きている世界と切り結ぶものであることを、再確認することになる作品である。

2022年10月19日記