『闇の奥』ジョゼフ・コンラッド/高見浩(訳)/新潮文庫2022-11-05

2022年11月5日 當山日出夫

闇の奥

ジョゼフ・コンラッド.高見浩(訳).『闇の奥』(新潮文庫).新潮社.2022
https://www.shinchosha.co.jp/book/240241/

これはまだ読んだことのない作品であった。新しい訳としては、光文社古典新訳文庫がある。新しく新潮文庫で高見浩訳が出たので、これで読んでみることにした。名前は知っていたが、なんとなく読みそびれてきてしまった本である。

この作品の理解のキーワードとしては、植民地、それから、自然と人間、というようなことになるのだろう。読んで思うこととしては、次の二点ぐらいがある。

第一には、植民地ということ。

一九世紀のアフリカの植民地の現地の人びと、そしてそれを支配する側の人びとのこと。植民地とはこんなものかと思って読めばそのとおりかなと思う。ただ、植民地といっても、現代の二一世紀から考えるのと、まだ、列強諸国が植民地を持つのが当たり前であった時代の考え方とは、自ずと異なることをふまえておくべきだろう。

そのことを分かったうえで読むことにはなる。一九世紀のころ、ヨーロッパの人びとは、植民地の現地の人間のことを、こんなふうに見ていたのかと、これはこれとして、興味深いところがある。

第二には、自然と人間。

アフリカのコンゴ河の奥地のジャングルの自然が描かれる。その前にあって、人間はあまりに卑小であるといってよかろうか。あるいは、その自然に対することによって、人間の根源的な部分が、明らかになるとでもいうべきであろうか。このところにおいて、この作品は、一種の普遍性を獲得しているといっていいだろう。この作品が、世界文学の名作として読み継がれてきている理由が、このあたりの人間性の認識にあるのだろう。

以上の二つのことを思ってみる。

新しい翻訳ということもあるが、訳文が端正でなめらかである。そう長くない作品だが、ほぼ一息に読むことができた。

また、この作品が、マーロウの語りでなりたっていることも重要かもしれない。そして、その物語が語られる場所が、ロンドンのテームズ河という設定も意味のあることだろう。アフリカを舞台にした物語でありながら、その外枠には、一九世紀の英国を見てとることができる。

2022年11月4日記