『給仕の室』中公文庫 ― 2022-11-17
2022年11月17日 當山日出夫

中央公論新社(編).『給仕の室-日本近代プレBL短篇集-』(中公文庫).中央公論新社.2022
https://www.chuko.co.jp/bunko/2022/08/207247.html
タイトルにもあるとおり、BL小説集ということになる。
近年のBL作品について、そのようなジャンルがあることは知っているが、好んで読むということはしてない。一方、日本の近代文学、古典文学を見わたせば、いわゆるBL的なテーマの作品が多くあること、これは日本文学史の常識と言っていいだろう。日本文学の伝統的な流れのなかにあっては、BLというのは特に禁忌ということではなかったというのが、私の認識である。
この本は、Ⅰ部とⅡ部にわかれている。Ⅰ部で、狭義のBL小説といっていいものをあつかい、Ⅱ部においては、もうちょっと視点を広くとって、むしろ男性同士の友情といった方がいいような作品をあつめてある。
はっきりいって、この本を読むまでは、知らなかった作品はもちろん、名前を知らなかった作家もいる。不勉強であったというべきなのだが。近代になって、このような作家が、BLというジャンルに入る作品を書いていたのかと、新鮮な驚きというものがある。
なかには読んだことのある作品もある。太宰治の「駆込み訴え」は、はたしてこの本のなかに入っていていいのかどうか、ちょっと迷うところでもある。しかし、そのようなことは抜きにして、読みなおしてみて、なるほどこれは傑作といっていい作品だと思った。
それから、山本周五郎。これまで、特に山本周五郎の作品を好んで読むということはあまりなかったのだが、久々に読んでみるとこれがいい。素朴なヒューマニズムにふれた感じがする。こういう作品もいいものだと、この年になって読んでつくづくと思うようになった。
ともあれ、このようなアンソロジーをきっかけにして、日本文学において、性の問題、特に同性のことを、どのように描いてきたか、改めて振りかえって考えてみる必要があるだろう。これは出版としてはいい企画の本だと思う。
2022年9月19日記
最近のコメント