『一言芳談』小西甚一(校注)/ちくま学芸文庫2022-12-23

2022年12月23日 當山日出夫

一言芳談

小西甚一(校注).『一言芳談』(ちくま学芸文庫).筑摩書房.1998
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480084125/

ちくま学芸文庫で、今年(二〇二二)に創刊30周年記念ということで復刊になったものの一冊である。このさらにもとになった本は、一九七〇年の「日本の思想」である。

ちくま学芸文庫の復刊ということで買って読んでみることにした。読んで思うこととしては、次の二点ぐらいがある。

第一には、中世を感じるということ。

この本はどこから読んでもいいようなものかと思って、適当にページを繰って読んでみたのだが、そこに感じるのは、まさに中世の、浄土念仏思想の端的な表出である。このような書物が書かれた時代こそ、中世(鎌倉時代)と言っていいのだろうと思う。

緻密な論理体系を構築するというものではなく、小さなエピソードの集まりである。その一つ一つに、こんなことばにその生涯を託するような生き方があった、そんな時代があったのかと、強く感じるところがある。

第二に、古典ということ。

古典の校注としては、ちょっと古いかなと感じるところがないではない。だが、もとの本が、一九七〇年の本であるということを思ってみると、この時代までは、この「一言芳談」のような作品を「古典」として読む、読書の世界があったことが理解される。これが、今ではどうだろうか。ちくま学芸文の記念復刊ということで再び世に出ることにはなったが、普通の出版としては、もうこんな本はできないかと思う。世の中の古典離れは、進んでいる。

解説を書いているのは、臼井吉見である。読んで、『徒然草』『方丈記』のことなどが論じられているのだが、これも、今の観点からするならば、ちょっと古めかしい議論である。そうはいっても、このような内容の文章が一般に読まれるほどに、まだ『徒然草』や『方丈記』が、日常の読書のなかで生きていた時代があったのかと、ある意味で感慨深いものがある。

以上の二点のことなど思ってみる。

『一言芳談』は、むしろ『徒然草』の引用によって有名な作品かもしれない。『徒然草』が「教養」の書であり、また、そこから『一言芳談』へと目が向く、このような時代があったことになる。『徒然草』についても、読みなおしてみたくなった。

2022年12月19日記