『雪月花』北村薫/新潮文庫2023-03-02

2023年3月2日 當山日出夫

雪月花

北村薫.『雪月花-謎解き私小説-』(新潮文庫).新潮社.2023(新潮社.2020)
https://www.shinchosha.co.jp/book/406615/

北村薫の本であるが、「私小説」とある。だが、私には、エッセイとして読める。ただ、そこには幾分の虚構をふくんだものとしてである。

ともあれ、読んでいて楽しくなる、あるいは、うらやましくもなる文章である。

読んで思うことを二点ばかり書いておく。

「雪の日やあれも人の子樽拾い」という句が出てくる。山田風太郎の作品に引かれているところからスタートする。この句の作者をめぐって、いろいろと探索がつづくのだが、なかに担当編集者にあって、松濤美術館の展覧会でこの句と絵を見たと情報を得る場面がある。気になって、「雪の日や……」の句を検索してみると、ヒットする。文化遺産オンラインである。

https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/18537

たぶん、この絵のことなのだろう。戸張孤雁である。

だが、こんなことは北村薫は知って書いているのかもしれない。インターネットで簡単に検索できることだが、それをわざと人に聞いたことになっているかもしれない。ふとこんな風にも思ってみたくもなる。

『雪月花』の著者が、岩波文庫の『日本近代随筆選』(三冊)の解題を知らないはずはないだろう。随筆には、虚構があってもいいのである。

ちなみに、次のようなことをかつて書いた。

やまもも書斎記 2016年6月23日
志賀直哉『城の崎にて』は小説か随筆か
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/06/23/8117250

それから、この新潮文庫版の作りも凝っている。巻末の広告である。普通の文庫本の作り方だったら、同じ新潮文庫の北村薫の作品を列挙する。それであまったページにはたいていはその月の新刊を挙げるのが通例である。しかし、この本はそうなっていない。あがっている作家は、夏目漱石、ホームズ、萩原朔太郎、芥川龍之介、江戸川乱歩、となっている。どれも、この『雪月花』に出てくる人物である。(それに、池澤夏樹もあがっている。これは、この文庫本の解説を書いていることによる。しかし、ここは福永武彦をあげてもよかったのではないか。)

プラトンの対話編を、光文社古典新訳文庫で順次読んでいく途中で手にした本である。本を読むことの楽しさにあふれた作品といっていいだろう。

2023年2月4日記