『牧野富太郎の植物学』田中伸幸/NHK出版新書2023-05-12

2023年5月12日 當山日出夫

牧野富太郎の植物学

田中伸幸.『牧野富太郎の植物学』(NHK出版新書).NHK出版.2023
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000886962023.html

これはいい本である。朝ドラ『らんまん』のかかわりで牧野富太郎にかかわる本をいくつか手にしてみた。そのなかでも面白く優れたものの一つであると言っていいだろう。

この本の特徴は、次の二点になるだろうか。

第一には、植物学者としての牧野富太郎について、何をした人なのか、その学問的「業績」とはどんなものなのか、そして、何をしていないのか、というあたりを、日本における植物学の簡単な歴史とともに、分かりやすく解説してあることである。あくまでも、植物学者としての牧野富太郎に絞って書いてある。

「学名」をいくつつけたか、「標本」をどれだけ集めたか、えてしてこのような側面が語られがちであるが、しかし、このことについて、植物学という学問の観点から冷静に評価している。

牧野富太郎の業績は基本的に、日本の「フロラ」を明らかにした、その仕事のかなりの部分をになったところにある、ということになるらしい。また、植物学の本来の目的ではないかもしれないが、一般的な啓蒙活動においてはその残したものは大きい。(だからこそ、今にいたって牧野富太郎のファンが多いということにもなっていくのだろうが。)

第二には、植物学という学問の分かりやすい解説になっていることである。牧野富太郎の「業績」を明らかにするためには、例えば、そもそも「学名」とはどのように名付けられるものなのか、それは、どのように研究者によって利用されるものなのか、簡単に分かりやすく説明してある。また、「標本」とはどのように作り、管理されるものなのか、専門家の視点で述べてある。

この意味では、牧野富太郎がつけたとされる「学名」も、残した「標本」も、再検討の余地があることになる。

以上の二つのことが印象に残るところである。

さらには、牧野富太郎の植物学者としてのすぐれた仕事として、植物図がある。これは今日においても評価に耐えるもののようだ。

ヤマトグサやムジナモについての論文には、専門家の目で見ると、いろいろと問題があるようである。

この本によると、日本における植物分類学という分野は危機的状況にあるらしい。科学の基礎的な領域である。これからの若い人の活躍に期待したいところである。

2023年5月9日記

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