『編集者の読書論』駒井稔/光文社新書2023-06-06

2023年6月6日 當山日出夫

編集者の読書路

駒井稔.『編集者の読書論-面白い本の見つけ方、教えます-』(光文社新書).光文社.2023
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334046637

面白い本である。現代におけるすぐれた読書論、読書案内になっている。

著者、駒井稔は、元、光文社古典新訳文庫の編集長。その経験、それから、それ以前からの編集者としての経験が土台になっている。

まず興味を引くのは、編集者という仕事についてである。私の感じるところでは、一般には、編集者というと、出版社の社員というような感覚で思われているかもしれない。だが、この本を読むと、書籍編集者、特に文芸書の編集者は、著者と対等に本を作っていく重要な役割であることが分かる。日本はともかく、欧米ではそうであると言っていいのだろう。編集者の仕事や出版ビジネスについて、欧米各国の事例、体験について語ってあるところは貴重である。

それから、その編集者の仕事の延長として、書店、出版社、図書館、といった本にまつわるもろもろについて語られる。これが面白い。出版はビジネスであるという観点が強調されているのだが、これは、私も深く同意するところでもある。ただ、そうはいっても、ビジネスとして儲かればいいというだけのことではない。小規模でも、いい本をきちんと作っているところには、目配りもある。

そして、何よりもブックガイドとして面白い。ある面では、ブックガイドのブックガイドという側面もある。本について述べた本を数多く紹介してある。

紹介してある本のなかには、読んだことのある本もあるし、名前を知らなかった本もある。この本をきっかけにして、いろいろと読んでみたい本がある。特に、『若草物語』とか『小公女』とか、名前とストーリーの概要は知っているつもりでも、きちんと読んだことのないものが多い。これら、これからの読書の範囲に加えてみたいと思う。

ところで、著者の経歴には、慶應義塾大学とあるのだが、あるいは、三田のキャンパスに通っていた時期が、私と重なっているのかもしれない。

別に悪いことだとは思わないが、『福翁自伝』が自伝の傑作として紹介してあるのはいいのだが、現代語訳である。決して『福翁自伝』は、難しいことばで書かれてはいない。(まあ、慶應で学ぶと、福澤諭吉の著作は、遠ざけてしまう感覚があるということは、私としても分かる気がするのだが。)ここは、現代語訳ではなく、現代の校訂本(原文)の『福翁自伝』を紹介しておいてほしかった。

2023年5月19日記

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