『「戦前」の正体』辻田真佐憲/講談社現代新書2023-06-08

2023年6月8日 當山日出夫

「戦前」の正体

辻田真佐憲.『「戦前」の正体-愛国と神話の日本近現代史-』(講談社現代新書).講談社.2023
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000377413

今の世の中で一般に保守と言われている人たちがいる。あるいは、右翼と言ってもいいかもしれない。「日本をとりもどす」とか言っている。(これは私には、非常に空虚なことばにしか感じられない。これなら、まだ「虚妄」の民主主義の方がましである。)

明治の昔に帰そうとしているようである。

では、明治の昔は実際はどんなであったか。これが、意外と知られていないといのが、実情のようである。明治維新から、大東亜戦争の終結まででも、七〇年以上ある。その時代が、はたして均一の価値観、世界観で語れるものなのだろうか。

この本は、特に、神話の理解において、日本の近現代がどうであったか、分かりやすく語っている。すぐれた日本の近代史概説であり、あるいは、日本神話入門でもある。

そもそも、明治維新は、復古であった。天皇制の再発明が明治維新であったと言っていいだろう。この意味では、日本神話も明治になってからの再発明であると言えるだろう。

日本神話が、明治以降どのように受容されてきたのか、その概略が分かりやすく述べてある。例えば、神功皇后の事跡……今ではもう忘れられているようであるが……が、きわめて人気の高いものであったということがある。あるいは、「八紘一宇」ということばが、どのような経緯で社会に定着していったのかということもある。

近代の歴史について、明治維新から段階を追って語ってある。それは、明治になってから、日本神話が、人びとのなかにどのように定着していったかという歴史でもある。(それが、今日では、日本神話は、ほとんど忘れられていると言ってもいいかもしれない。)

著者(辻田)は、歴史には「物語」が必要であるという。これには、私も同意する。無論、実証的な研究は必須であるが、その実証においても、「物語」と無縁ではありえない。

近代……大東亜戦争まで……の日本の「物語」がどんなもので、どのように歴史的に形成されたものであるか、語ってある。そして、重要なことは、かつての日本が、そのような「物語」を持っていたということを、現代においても認識しておく必用性である。これは、決して戦前を美化することでも、否定することでもない。

そのうえで、これからの日本において、どのような「物語」が必要であるのか、考えることが重要になってくる。この本は、「伝統」とは何か、「保守」とは何か、考えるために有益な一冊であると思う。

2023年5月20日記

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