「舟を編む ~私、辞書つくります~」(7) ― 2024-04-03
2024年4月3日 當山日出夫
舟を編む ~私、辞書つくります~ (7)
ドラマのなかで、「遣らずの雨」が出てきていた。今では、普通に使うことばではない。ことばとしては知っていたが、その使用例に実際に接したのはひょっとすると、始めてかもしれない。このことばを憶えたのは高校生のときである。NHKの夜のドラマで、『若い人』を放送したことがある。石坂洋次郎の小説が原作である。主演は松阪慶子。北海道の女学校の生徒の役である。ヒロインの名前は江波恵子。ドラマのなかで「やらずのあめ」と言っていたのを記憶している。ただ、このことばは、原作なかには出てこない。原作の小説は、だいたい一〇年おきぐらいに読み返すことにしている本である。今まで何度か読んできている。
テレビを見ていて(録画であるが)、久しぶりに、『若い人』のことを思い出した。
辞書のデータ整理にXMLを使うのは、常識のうちだろう。ただ、データがXMLで記述されている、あるいは、マークアップされているからといって、そのまますぐにデジタルの辞書になるわけではない。そのデータの加工の手間暇も辞書の制作コストのうちである。
このドラマで言うデジタルの辞書とは、どんなものなのだろうか。ジャパンナレッジのようなWEB版課金システムなのか。そのアクセスのためのキーが、紙の辞書と一緒についてくるということであるのか。あるいは、DVD版、USBメモリ版のようなパッケージなのだろうか。大漢和のように。このあたりのことが明確にならないと、ただデジタルの利便性と言っても、はっきりしないところがある。
紙の辞書はもうからないかもしれない。では、デジタル辞書ならもうかるかというと、どうだろうか。自前でサーバを管理運営するのは、かなりコストがかかるだろう。ならば、ジャパンナレッジに乗り込んでしまおうというのが、現実のデジタル辞書の世界であるようにも思える。
それから、製紙の用語として、a価、b価とあったが、なるほど、こういうところに使うのかと思ったところでもある。これは、Lab系の色彩表示の方法である。(これについて書くと、かなり色彩学の専門的な議論になるが。)色彩をあつかうには、RGBよりも、Lab(L*a*b*)の方が扱いやすいし、ヒストグラムを作ると、三次元空間に立体的に把握することができる。
余計なことかもしれないが、雑誌がWEBになってRGBだから色が表示できると、ドラマのなかであったのは、ちょっと短絡的である。厳密には、ディスプレイの機能、画像データの作り方によって、扱えるRGBは同じではない。PCで見ることが前提ならば、sRGBということになると思うが。
この先、このドラマがどの方向に向かうかは分からないが、デジタル辞書の良さの一つは、ユニバーサルデザインに向いていることである。たとえば、紙の重い辞書を、身体に障害のある人が使うにはハードルがある。また、視覚障害のある人のためには、デジタル版が必須といっていいだろう。こういう側面も、デジタルの辞書の利点として、考えるべきだと私は思っている。
2024年4月1日記
舟を編む ~私、辞書つくります~ (7)
ドラマのなかで、「遣らずの雨」が出てきていた。今では、普通に使うことばではない。ことばとしては知っていたが、その使用例に実際に接したのはひょっとすると、始めてかもしれない。このことばを憶えたのは高校生のときである。NHKの夜のドラマで、『若い人』を放送したことがある。石坂洋次郎の小説が原作である。主演は松阪慶子。北海道の女学校の生徒の役である。ヒロインの名前は江波恵子。ドラマのなかで「やらずのあめ」と言っていたのを記憶している。ただ、このことばは、原作なかには出てこない。原作の小説は、だいたい一〇年おきぐらいに読み返すことにしている本である。今まで何度か読んできている。
テレビを見ていて(録画であるが)、久しぶりに、『若い人』のことを思い出した。
辞書のデータ整理にXMLを使うのは、常識のうちだろう。ただ、データがXMLで記述されている、あるいは、マークアップされているからといって、そのまますぐにデジタルの辞書になるわけではない。そのデータの加工の手間暇も辞書の制作コストのうちである。
このドラマで言うデジタルの辞書とは、どんなものなのだろうか。ジャパンナレッジのようなWEB版課金システムなのか。そのアクセスのためのキーが、紙の辞書と一緒についてくるということであるのか。あるいは、DVD版、USBメモリ版のようなパッケージなのだろうか。大漢和のように。このあたりのことが明確にならないと、ただデジタルの利便性と言っても、はっきりしないところがある。
紙の辞書はもうからないかもしれない。では、デジタル辞書ならもうかるかというと、どうだろうか。自前でサーバを管理運営するのは、かなりコストがかかるだろう。ならば、ジャパンナレッジに乗り込んでしまおうというのが、現実のデジタル辞書の世界であるようにも思える。
それから、製紙の用語として、a価、b価とあったが、なるほど、こういうところに使うのかと思ったところでもある。これは、Lab系の色彩表示の方法である。(これについて書くと、かなり色彩学の専門的な議論になるが。)色彩をあつかうには、RGBよりも、Lab(L*a*b*)の方が扱いやすいし、ヒストグラムを作ると、三次元空間に立体的に把握することができる。
余計なことかもしれないが、雑誌がWEBになってRGBだから色が表示できると、ドラマのなかであったのは、ちょっと短絡的である。厳密には、ディスプレイの機能、画像データの作り方によって、扱えるRGBは同じではない。PCで見ることが前提ならば、sRGBということになると思うが。
この先、このドラマがどの方向に向かうかは分からないが、デジタル辞書の良さの一つは、ユニバーサルデザインに向いていることである。たとえば、紙の重い辞書を、身体に障害のある人が使うにはハードルがある。また、視覚障害のある人のためには、デジタル版が必須といっていいだろう。こういう側面も、デジタルの辞書の利点として、考えるべきだと私は思っている。
2024年4月1日記
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