「ヒューマンエイジ 人間の時代 第4集 性の欲望 デジタル技術“解放”か“堕落”か」2024-07-08

2024年7月8日 當山日出夫

NHKスペシャル ヒューマンエイジ 人間の時代 第4集 性の欲望 デジタル技術“解放”か“堕落”か

性について番組を作るとき、それを肯定的にとらえるか、あるいは、さける方向であるべきか。今の時代に即して言えば、フェミニズムに配慮すべきか、あるいは、それに反対するいわゆる保守的な立場を考慮すべきか、難しい。(ただし、私は、本来の意味での「保守」ということばはこのようには思っていないのだが。)

番組で使っていなかったことばが、「ジェンダー」であり「エロス」であった。性については、主に人間の生理的な面からアプローチしていて、文化的歴史的な側面にふみこむことをほとんどしていない。これは、これで考えた作り方だったと思う。

人間の性について思うことを書いてみるならば……それを生得的なものとしてとらえるのか、文化的なものとしてとらえるかで、考え方は変わってくる。

もともと性は、生得的なものとして考えられていた。現代の人間観でいえば、遺伝子によって決まるということになる。そして、性的指向も同様である。大多数の人間にとっては、異性愛が普通であるが、ごく少数の人は同性愛であったりする。これが基本的な考え方であったろう。

遺伝子は自分では選べない。どのような性、あるいは、性的指向に生まれるかは、自分の責任ではない。これは、肌の色を自分で選ぶことができないのと同じである。だからこそ、自分で選ぶことのできない要因によって、差別されてはならない。これまでの人権についての基本的考え方や、特に、女性の権利についての考え方の基本には、このことがある。だから、性的少数者(LGBTQ)の人権は守られねばならない。自分の意志で、そのような性的指向を有することになったのではないのであるから。

だが、これが、最近になってちょっと変わってきていると感じる。自分が生物学的に男性か女性であるかは選択できなかったとしても、どのような性的指向を持つかは、自分で選ぶことができる。このような考え方を、このごろ目にするようになってきた。個人の自由意志は最も尊重されるべきである。自分で自由に選ぶことのできることについて、ひとからとやかく言われることはない、という価値観からの性の多様性、自由ということになってきている。

ジェンダー、あるいは、性の歴史をふり返ってみるならば、私の知る範囲内でも、時代や地域によってバリエーションがあることは確かである。日本でもかつては、同性愛は、必ずしも禁忌ではなかった。また、男女の関係についても、現在のような潔癖な一夫一婦制というわけではなかった。人間の性のあり方は、文化にかかわる領域がかなりあることも確かである。

つまり、人間の性というものは、生物学的な視点だけでは語り得ないものである、というのが私の認識である。人間の性は歴史と文化とともにある、このような認識が必要ではないか。歴史と文化をはなれて、まったく個人の自由になるものとしての性……性別も性的指向も自分で選択できるし、そうしなければならない……という無自覚ないわば個人主義的な流れでは、これからどうなっていくのだろうという気になる。

この観点では、現代になってAIに性的欲望を感じるようになっているとしても、それはそのような時代になっているのだ、と思うことになる。AIもまた人間の文化所産産である。

また、性とメディアの問題もある。インターネット上にある膨大なポルノコンテンツが問題かもしれないが、しかし、歴史をふり返ってみれば、新しいメディアに対応してきたのが、性の歴史であるともいえる。インターネットの黎明期に、まず登場したのがポルノであったことは、記憶にあることである。(ちなみに、このことにつては、立花隆が書いたものがある。)小説、マンガ、映画、さかのぼれば浮世絵、これらの歴史はポルノを抜きにしては語れない。

ところで、ドール……古くからのことばでいえば、ダッチワイフであるが……の生産が、中国の独占ともいうべき状況にあるということは、知らなかった。検索してみると、普通にネット通販で売っている。

それから、セルフプレジャーという言い方は、これから日本語のなかで定着していくだろうか。これもネット通販では各種の用品を売っている。

ちょっともの足りないと感じたところがあるとすると、人間の性愛には、自分自身の欲望の満足ということもあるが、相手(それは多くの場合、異性であるが、同性であってもかまわない)に、快楽を感じさせたい、それを共有したい、二人で楽しみたい、という面もある。このようなことについて触れることがなかった。このような面から考えると、AIやドールが性愛の相手として完全にとってかわるということはないのかもしれない。

2024年6月25日記