「80億人 人類繁栄の秘密」2025-01-01

2025年1月1日 當山日出夫

フロンティア 80億人 人類繁栄の秘密

録画してあったものをようやく見た。これは、一月六日に再放送するらしい。

まず、気になったことを書いておく。「フロンティア」のこの回の放送は、二〇二四年八月二二日である。その後、一一月四日に、「フランケンシュタインの誘惑」で「ネズミの“楽園”実験 切り取られた研究成果」を放送している。

なぜ、このことが気になったかというと、ユニバース25の実験の解釈についての疑問である。アメリカでカルフーンの行ったこの実験は有名なものだが、続きがある。数が増え続けたネズミは、滅亡するということは確かなことだろうが、そうであっても、ネズミに役割が与えられると、協力するようになり絶滅にいたらない、ということである。これを、「フランケンシュタインの誘惑」であつかっていた。

さて、NHKのスタッフは、この二つの番組をどう思って作ったことになるのだろうか。

人類がこれからも人口が増え続けるということは、人口学的には、どうなのだろうか。特に歴史人口学の立場からは、むしろ否定的であるように思える。例えば、『人口で語る世界史』(ポール・モーランド、度会圭子訳、文春文庫)を読むと、近代文明の時代になって、生活水準が上がり、女性の教育が普及すると、子どもの数が減る……これは、洋の東西をとわず、どこの国・地域でも見られる現象ということになる。すでに、日本を始めとして韓国などは人口減少の危機にある。ヨーロッパ諸国もそうである。中国も、将来の人口減少が確実である。アメリカは、例外的に移民の増加で、人口は維持できそうであるが、それを除けば基本的には減少傾向である。私には、こちらの考え方の方が、より説得力があるように思える。(だからといって、人口を維持するために、女性の教育が害であるなどと言うつもりはまったくない。)

番組のなかで言っていた、個々のことは興味深いことである。自己家畜化、お互いに仲よくした方が生き残れる、という生存戦略。アフリカを出る前の人類(ホモ・サピエンス)は、弓矢を使っていた。DNAから過去の人口を推定すると、かつて人類は絶滅の危機にあった。だが、火を使うことによって、寒冷な気候を生きのびることができた。それぞれは、興味深いことなのだが、全体をとおして、ではなぜ、ホモ・サピエンスが、これほどまでに地球上にひろがったのか、ということの説明としては、どうだろうかと思うことになる。

自己家畜化はとても興味深い論点である。しかし、人類の歴史は、敵対する人間に対する虐殺の歴史でもあったことも、また事実である。普通の人間が、時として非常に残酷になる。人類の歴史は、非常に残酷である。人間の歴史は、友愛の歴史でもあるだろうが、同時に、大量虐殺の歴史でもある。これは、歴史の常識であろう。

エチオピアの遺跡から見つかった矢じりは、他の遺跡から見つかる石器との比較検討が必要だと思うのだが、番組では、このことについてはまったく触れていなかった。また、その矢じりを作った石は、どこから得たものだったのだろうか。

この番組では言及がなかったが、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』は面白い本なのだが、根本的に納得できないところもある。言語、宗教、共同体意識、こういうことの成立について、歴史上あった、というだけで、何故、どういうふうにして、それがおこったのかまったく説明がない。これを、現代の、脳科学や遺伝子の研究から解明することはできるだろうか。

進化ということばを番組のなかで使っていたが、生物学の用語としての進化ということばで説明できるのは、せいぜい旧石器時代から新石器時代ぐらいではないのだろううか。日本でいえば、縄文時代ぐらいまでという印象なのだが。今から数千年前に発生した古代文明について、進化という概念で説明ができるのだろうか。これは、生物学と歴史学にまたがる人類学という分野の本来のテーマかもしれない。

2024年12月31日記

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