『カーネーション』「あなたの愛は生きています」2025-03-23

2025年3月23日 當山日出夫

『カーネーション』「あなたの愛は生きています」

ようやく終わった。見るのは、二回目か、三回目になるはずである。見ながら思ったことは、これまでに書いてきたのだが、あらためて振り返ってみる。

ドラマの脚本の良さについては、言われているとおりだと思う。

そして、映像としてみても、非常によくつくってあった。ほとんどは、岸和田の糸子の店と家でのことになるのだが、このセットの作り方として、窓から外の景色が見えるようにしてある。庭の木の葉が、風に揺れている。その外から、家の中にさしこむ光が、非常に効果的に使われている。画面の構図と明暗によって、奥行きのある映像として表現していたことになる。一日の時間の変化、季節の変化を、光で表現している。こういう作り方、撮影の方針というべきだろうか、これを、始めから最後まで一貫してつらぬいて作ってある。これは、このドラマをどのような映像として見せるか、という方針がきっちと定まっていて、途中でブレていないということでもある。

また、岸和田の小原の呉服店、オハラ洋装店、この店や家のなかに映っているものの数が多い。単純なことだが、これは、非常に重要なことだと思っている。ちょっとした小道具を、いかにも、その時代の、その店や家庭らしい雰囲気で用意するというのは、なかなか大変だろう。それだけ、制作スタッフが小道具などの製作に頑張っているということである。この画面に映っているものの数が多いということは、これまでに、つまらないと感じたドラマでは、画面がスカスカであったということでもある。

最後の岸和田の店の二階でのパーティーとだんじり見物のシーンでも、この回のためだけに、テーブルの料理や食器など、いかにもそれらしく、そして、豪勢に見えるように準備してあった。こういうところの制作の手間暇を惜しまないところが、いいドラマの基礎になっている。

そして、何よりも、主人公の糸子が、職人として仕事をする場面を、きちんと描いていたことである。洋裁の仕事としては、基本的にミシンをあつかうことになるのだが、このドラマでは、糸子がミシンをかける描写が、何度となく映っていた。それが、別にくどいとか、毎回同じでマンネリだとか、感じさせない。その時々の、糸子の感情をこめて、ミシンをあつかう描写になっていた。

オハラ洋裁店でも、多くの人が働いていた。その仕事ぶりが、それらしく描写してった。(実際には、外に工房があってもいいかもしれないと思うのだが、ここは、あえて店のなかで多くの働く人として、映していたことになる。)

こういう職人が働いて、手を動かしている場面を、きちんと描いてあることが、このドラマを、より説得力のあるものしている、大きな要因だろうと思う。

糸子のものの考え方や感覚については、あるいは、かならずしも賛同できないという人もいるかもしれない。しかし、こういう人間が、その時代に生きてきて、そのように思い感じてきた、その生活の感覚は、しっかりと伝わってくるものであったし、その糸子の生活感覚は、ドラマ全体をとおして一貫したものとなっている。人物の造形がしっかりしていて、統一性がとれているということになる。

人間とはこういうもの、世の中で生きていくというのはこういうこと、これを、説得力のある脚本と演出で描きだしたドラマであり、成功した見事な事例といっていいことになる。歴代の朝ドラのなかで、最高傑作と評価されるだけの価値のあるドラマである。

2025年3月22日記

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