新ジャポニズム 第3集 FOOD 日本食が“世界化”する2025-03-26

2025年3月26日 當山日出夫

NHKスペシャル 新ジャポニズム 第3集 FOOD 日本食が“世界化”する

私自身の興味関心としては、普通の人間が、日常の生活のなかで、何をどのようにして食べてきたのか、ということにある。特別な御馳走には、あまり興味がない。だが、何が特別であるか、ということは重要である。こういう関心の持ち方は、学生のときに勉強したことの一つが、民俗学(折口信夫や柳田国男などの系譜なのだが)ということにあるだろうと、自分では思っている。

見ながら思ったことを書いてみる。

居酒屋は、このところ行っていない。東京に行くことがなくなったし、学会にも出ない。以前は、学会の懇親会の後、若い大学院生などさそって、街中の居酒屋であれこれと話すということもあったが、もうそういうこともない。まあ、今の時代である、無理に若い学生をさそおうものなら、逆にハラスメントと言われかねない。

居酒屋的な文化は、特に日本だけのものだろうか。NHKで、「世界の居酒屋」という番組があったりするので、そんなに日本だけのものとは思っていなかったのだが。だが、日本の居酒屋ならではの雰囲気というものはあるにちがいない。

サウジアラビアの居酒屋は、ある意味で、日本の居酒屋から無くなろうとしているものがあるのかもしれない。近年、ファミレスなどが特にそうだと思うが、店での注文はタブレットから、そして、料理はロボットが運んでくる、というふうになりつつある。店員さんが席にやってきて注文を聞いてくれて、それを席まで運んでくれる、というのは、もはや日本では、贅沢なサービスである。

おまかせ、というのは日本の店では普通にある。寿司屋とか、天ぷら屋など、値段だけきまっていて、中身はその日の仕入れで決まる、こんな感じの店はめずらしくない。まあ、値段までおまかせというような店は、こわくて行けないけれど。

だが、このようなシステムは、日本ならではのものと言われればそうなのかなと思う。私の感覚だと、レストランなどで、注文のときに、肉の焼き加減とか、ソースの種類とか、いちいち指定しなければならないことがあったりすると、この方がわずらわしくて嫌である。

だし、というのが日本の食文化にあることはたしかである。しかし、これも歴史的に考えてみるならば、昆布がひろまったのは近世以降だろう。北海道の昆布は、遠く琉球まで運ばれることになって、独自の食文化になっていった。昔から、そうであったということではない。

だしのことをいうならば、日本がほこるべきは、味の素の発明、あるいは、グルタミン酸の発見、でなければならない、と思うのは、天邪鬼な見方だろうか。池田菊苗の名前ぐらい、番組のなかで出てきてもよかったと思う。できれば、夏目漱石とロンドンで一緒だったことも。

いけじめは、たしかに近年になってから流行りだしたように思うが、しかし、古くは、海の沖で釣った魚を鮮度を保って持ち帰るための漁師の技法であったと、私は認識していたのだが、どうだろうか。

ブラジルの人の手巻き寿司には、ややおどろく。特に、これを、油であげてしまうのは、ちょっとどうかと感じるのだが、これも人間の好みといえばそれまでである。

ここで、言っていなかったこととして気になることとしては、ブラジルは、多くの日系人がいるはずだが、かつて、移民として渡った人たちは、現地にどのような食文化をもたらしたのか、あるいは、なかったのか、ということがある。

この番組のなかで、日本食といっていたのは、だいたいが近世になってからのものであるといっていいだろう。歴史的に見れば、マグロ、それも、トロを、珍重するようになったのは、つい最近のことであり、昔は捨てられていたというのが、常識的な見解だと思うが。

魚の料理については、古くからの食べ方もある一方で、近代になってから、漁法や輸送方法、保存方法(冷蔵庫の普及)、これらによって大きく変わってきた部分もあるにちがいない。歴史的な背景を無視して、伝統的な日本食といってしまうことには、抵抗を感じる。

出てこなかった日本食が、ラーメンと焼き肉である。寿司だけが、日本の食事を代表するものではないだろうと思う。さらにいえば、にぎり寿司は、お米の大量消費地であった江戸の街ならではのものであっともいうことができるだろうか。

日本食が世界でどう食べられているかは、興味深いことではあるが、もうちょっと広く視野を持った方がいいだろう。高級レストランやお金持ちの食べるものだけで、日本食の外国での展開を考えるのは、どうかなと思う。

2025年3月25日記

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