『論文の教室』2009-01-21

2009/01/21 當山日出夫

戸田山和久.2002.『論文の教室』(NHKブックス).日本放送出版協会

次年度の教科書のはなし。アカデミック・ライティングでは、あいかわらず、と言っては著者に悪いが、『論文の教室』を使うことにした。

これに代わる本がない、というの私の認識。一般的な視点から、見れば、この本の特徴は、「論理」の構造を、論理学的に、きちんとあつかっている、ということになる。私も、最初は、この視点で、この本を採用した。だが、実際に、読んで使ってみて、「要約」について、解説した本として、すぐれているという認識に変わった。

世の中に、「論文の書き方」「レポートの書き方」の本は、山のようにある。最近のものは、インターネットでの資料調査まで解説してある。このような、マニュアル本はあってもよい。

「論文は独創的なものでなければならない」、はたして、今の大学生にいきなり、このレベルの議論が通用するだろうか。私の実感として、否である。それよりも、まず大切なのは、与えられた文献(論文や書籍)を、的確に読み解くことの方だろう。『論文の書き方』の表現にしたがうならば、

問い+答え+論拠

のかたちに再構成して、「理解」することである。また、この方式にしたがって、「書く」ことができなければいけない。これが、まず、基礎教養であろう。

たしかに、部分的には、文体模写などの冗長な部分もある。だが、このような「あそび」を理解できないで、何が教養だ、とも言いたくなる。逆に言えば、この程度の「あそび」を理解できる以上のレベルの学生にとっては、ということになってしまうが。

いま、さかんに人文学の危機がさけばれ、また、FDが議論されている。いきなり、独創性をもとめるよりも、まずは、基本的な書物の読解力(アカデミックな視点から)、この基礎トレーニングが必要ではなかろうか。

ところで、著者自身は、この本を、教養小説と称している。これは、私見であるが、私の認識では、今の日本における、最もすぐれた教養小説は、『ルドルフとイッパイアッテナ』(斎藤洋.講談社)である。この『ルドルフ』のシリーズは、3冊とも我が家にある。というよりも、斎藤洋については、実はファンなので、子ども大きくなっても、自分で読むために買っている。

さて、『インパクトの瞬間』(清水義範、ちくま文庫)を読まないと。

當山日出夫(とうやまひでお)