『漢字の文明 仮名の文化』2009-01-08

2009/01/08 當山日出夫

石川九楊.『漢字の文明 仮名の文化』.農文協.2008

私の方針として、本をとりあげるときには、あまり批判的なことは書かないようにしている。だが、「新常用漢字」が目の前で進行しているなかで、出版される、文字(特に漢字)についての本は、どうしても気になる。

私の立場では、この本は、二つの点から、問題点がある。

第一には、リテラシのことを、ほとんど無視していること。文字の読み書きとはおそらく無縁であったろう、古代(場合によっては中世・近世まで)の多くの人々のことを、どう考えればよいのか。文字を読める人たちだけが、日本語の変革にかかわり、その影響をうけるだけにとどまっていたのか。

第二には、(上述の点ともかかわるが)「文字」と「言語」は、それほどまでに密着したものであるのか。書かれて残っているもの(文献資料)を見る限り、「漢字」「仮名」「日本語」は、かなり密接な関係がある。だが、このことと、「文字が言語に与える影響」を過大評価してはいないであろうか。

このような考え方は、『漢字の未来 新版』(野村雅昭、三元社、2008)と対比的に読むと、強く感じる。そういえば、この野村さんの本、感想を書こうと思いながら、今にいたっている。

それから最近でた本、

『複数の日本語-方言からはじめる言語学-』(講談社選書メチエ).工藤真由美・八亀裕美.講談社.2008

文字とは関係なく、音声言語としての方言を軸に、世界の言語と日本語を論じている。文字で表記された、「標準的」(奈良~平安~江戸~東京)な日本語だけが、日本語であるのではない。

當山日出夫(とうやまひでお)

ワークショップ文字(第2回)を開催2009-01-08

2009/01/08 當山日出夫

国立国語研究所の高田智和さんから、連絡があって、ようやく、次回の「ワークショップ文字」のホームページのオープンになったとのこと。

URLは、

http://www2.kokken.go.jp/egov/ws_moji090207.html

まだ、発表タイトルの決まっていない発表者もあるし、逆に、これがタイトル(?)と思いたくなる、なが~いタイトルの発表もある。テーマは「文字の規範」。

確か、予定では、次回の新常用漢字の委員会で、その名称について審議されるはずである。このあたりのことは、小形さんのブログ「もじのなまえ」で、順次あきらかになっていくことと思う。

ともあれ、現時点でのプログラムを以下に記す。

プログラム(予定)

13:15-13:30 基調報告  當山日出夫(立命館大学グローバルCOE)「景観文字と字体規範-「祇園」のその後-」

13:30-14:00 発表(1)  小形克宏(フリーライター)

14:00-14:30 発表(2) 小池和夫(築地電子活版)「JIS X 0213 漢字の選定規準とその問題―JIS X 0213では漢字の選定については,区点位置詳説を掲載していない。選定にあたってはWGで長時間の議論が行なわれたが,最終的に選定の規準を確定することはできなかった。十年一昔というが,選定から10年を経た今,選定にあたってWGでどのような議論があったのか,いくつかの実例を示して検証してみたい。―」

14:30-15:00 発表(3)  狩野宏樹(イワタ)「字形規範とフォントデザイン」

15:00-15:15 休憩

15:15-15:45 発表(4)  師茂樹(花園大学)

15:45-16:15 発表(5)  池田証寿(北海道大学)「字書記述と実用例とを連関させた漢字字体の研究方法について」

16:15-16:45 発表(6)  林立萍(台湾大学)「台湾の大学入試センターの日本語語彙表における漢字字種について」

16:45-17:00 休憩

17:00-18:00 全体討論

終了後,懇親会を予定しています。

場所は国立国語研究所。新常用漢字も新しい局面をむかえる時である。次のステップは、いよいよ、パブリックコメント。前回のワークショップも、もうじき本になる。

多くの人にきてもらいたい。

當山日出夫(とうやまひでお)

『人文科学に何が起きたか』2009-01-08

2009/01/08 當山日出夫

つくばでのじんもんこん2008、この時、永崎研宣さんが、発表の中で紹介していた本。オンライン書店で注文して、ようやく今日になってとどいた。

とりあえず、目次を紹介しておきたい。各章のタイトルのみ。

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『人文科学に何が起きたか-アメリカの経験-』.A.カーナン/木村武史(訳).玉川大学出版部.2001

民主化と衰退?
 -人口統計学上の変化が人文科学にもたらした結末

一九七〇年から九五年までの人文科学における財政支援の傾向
 -システムの安定性への省察

無知な群衆と真夜中の衝突
 -人文科学の教室における変化 一九七〇-九五年

進化と革命
 -文学的人文科学の変化 一九六八-九五年

デジタル時代の人文科学と図書館

読書の実践

方法を超えて

変化の時代

メタファーの探求

学問的権威の消滅

社会的行為としての学問

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當山日出夫(とうやまひでお)

永崎さんの名前の表記をまちがえていたので訂正。
2009/01/12

新常用漢字:しんにゅうのてん2009-01-09

2009/01/09 當山日出夫

今日(2009/01/09)の『朝日新聞』(大阪版、朝刊)に、白石明彦(編集委員)による、「新常用漢字表(仮称)」についての解説記事がのっている。

主な論点は、「しんにゅう」の「てん」を一つにするか、二つにするかの問題。具体的には、現時点での候補案の文字では、次の字が該当するという。

遡 遜 謎

これらのことについては、小形さんのブログ「もじのなまえ」に、すでに詳しく記されている。

もじのなまえ
http://d.hatena.ne.jp/ogwata/

基本的なところで、いわゆる「許容三部首」(しんにゅう・しめすへん・しょくへん)が、まず、印刷標準字体との関係で問題になる。ただ、このようなことは、関係者にはすでに周知のことではある。それを、わかりやすい形で、新聞で報じたというのは、今回の白石さんの記事が、最初ではなかろうか。(すでに、別の一般的なメディアで報じられているようであれば、御教示ねがいたい。)

ところで、この記事を書いた白石さん、問題が、「しんにゅう」の「てん」の数ではとどまらないことを、よく分かって書いている、と読める。記事のなかの次の箇所、(なにげない記述のように見えるが、みすごせない。)

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追加字種で表現するならば「嵐」のような進「捗」(しんちょく=ルビ)状況だ。
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この箇所の「捗」の字。よく見ればわかるが、右側の部分が、「歩」ではない。常用漢字体の「歩」よりも、一画すくない、いわゆる旧字体の方である。部分字体の整合性は、このような箇所にも及ぶ。

次の委員会は、16日。それから、パブリックコメント。これに並行して、2月7日には、第2回の「ワークショップ文字:文字の規範」(国立国語研究所)を開催する。
http://www2.kokken.go.jp/egov/ws_moji090207.html

昨年の第1回のワークショップも近いうちに刊行の予定。また、第2回も、本にするつもりでいる。

當山日出夫(とうやまひでお)

追記
2009/01/09

白石明彦さん、「記者」と書いたのを「編集委員」に訂正。

今日は白川研の講演会2009-01-11

2009/01/11 當山日出夫

今日は、立命館白川静記念東洋文字文化研究所での講演会(石塚晴通先生)。午前中は、他に仕事があるが、午後の3時からだから、どうにか間に合うだろう。

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/sio/sympo.html

それにしても、今日の京都は、全国都道府県対抗女子駅伝の日。どう考えても、衣笠に行くには、最悪の日になっている。西大路が交通規制になると、どうにもならない。が、まあ、なんとかなるだろう。

どういう人たちがあつまるかわからない。が、質疑応答で、一般の人々の、字体についての問題意識の一端なりともが見えると、今後、文字の字体や規範について考えるときの参考になるだろうと思う。

當山日出夫(とうやまひでお)

『ARG』357号の感想:ハングルという言語名2009-01-12

2009/01/12
當山日出夫

『ARG』の357号の感想について、いささか。

どうでもいいようなことかもしれないが、ちょっと気になったこと。
http://d.hatena.ne.jp/arg/20090102/123088998

東京外国語大学の データベース 世界に広がる『赤毛のアン』
http://www.kufs.ac.jp/toshokan/anne/anneworld.htm

このデータベースを見ると、トップのページには「ハングル」とある。しかし、東京外国語大学で使用の言語の名称(科目名)としては、「朝鮮語」である。単に、大学の組織上の名称と、一般的な呼称をつかいわけたといえば、それまでである。なお、データベースを検索してみると、当該データの「言語区分」としては、「韓国語・朝鮮語」の用語をつかってある。

細かなことを言えば、「ハングル」は「文字の名称」。言語の名称としては、「朝鮮語/韓国語」など、あり得る(それぞれ、大学によって、名称の方針は異なる。)なかには、「ハングル」で、代用している学校もある。

もとをたどれば、NHKが、放送で語学番組を開設するとき、「韓国語/朝鮮語」で問題になった経緯があり、結局、「ハングル」でおちついた、というのが、私の知るところの経緯。

『ARG』でこれまで、話題になっていることがら。英語を、どのようなマークでしめすか。ユニオンジャック、星条旗、が妥当であるか。このようなことを考えるならば、その言語を、どのような名称(文字)で記載するかも、また、難しい問題である。

當山日出夫(とうやまひでお)

ブログの引用の自由をめぐって2009-01-12

2009/01/12 當山日出夫

私が確認したところで、読売新聞(YOMIURI ONLINE)が、報じている。この他、現時点で、Googleニュースでは、18件の関連報道がある。

テレビ朝日系で10日に放送の番組で、ブログ記事をスタッフが作って、それをあたかも、すでに一般にあるものであるかのように見せた問題。

記事から、一部「引用」すると、テレビ朝日の発言として、

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実際のブログ作成者から撮影許可が取れなかったので、同じ情報を元にスタッフが『再現』した。そのことをテロップやナレーションで伝えるべきだった。視聴者に誤解を与えかねない表現となり、申し訳ない。
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いくつかの問題点がうかびあがってくる。

・ブログ記事として、公開されたものの「引用」はどのようなルールであるべきか

・それは、文字データであるとしても、実際には、画面にレイアウトされたものとして、画像的な性格を持つ。では、それは、版面権・編集権、肖像権、のような権利をみとめるべきか。(なお、日本の法律上では、出版物の版面権は認められない。これは、漢字文献情報処理研究会によってあきらかにされている。)

・テレビである以上、文字データの「引用」ではなく、ブラウザで表示の画面を映像としてあつかう。このとき、どのような権利関係があり得るのか。(さらにいえば、ブラウザやその設定によって、見え方も違ってくるが、ここまで踏み込んだ議論になるのかどうか。)

このような問題の背景には、HPの「リンク自由」ことがある。ブログ(これもHPの一種の形態)で発言する以上、それは、誰にもアクセス可能でなければならない、と私は考える。だが、そこから先の次の利用、については、まだ課題が多いといわざるをえないのかもしれない。

これからの社会、ブログでの発言を無視して報道はあり得ないだろう。画面のレイアウトをふくめて画像で見せるか(全部あるいは部分的に)、また、文字列として引用して、再構成・編集するか。

この件のキーワードは「撮影許可」という言葉であろう。

これは、日本という「ガラパゴス」における、特有の、ネット文化の一端なのかもしれない。(「ガラパゴス」の言い方、『アーキテクチャの生態系』、濱野智史、NTT出版、2008、による。)

當山日出夫(とうやまひでお)

絵文字のことなど2009-01-12

2009/01/12 當山日出夫

もろさんのブログで、「絵文字」のことについて言及してある。

http://d.hatena.ne.jp/moroshigeki/20090111/p1

ここで、話しはとぶが、昨日の、立命館白川静東洋文字文化研究所での講演会。(石塚晴通先生、HNGについて。)

講演そのものは無事に終了。会場には、主催者側で用意してくれたパソコンがあるにはあったが、アスペクト比が、うまく調整できていない。会場となった教室(末川記念館)は、今年度前期に、デジタルアーカイブ(映像学部)で使用したので、プロジェクタなどの設定のややこしさは、身にしみて知っている。

どうしようかと迷ったが、私の持参のレッツノートを使うことにした。理由は、正面のスクリーンと、天井からのディスプレイと、両方が、同じアスペクト比で見える。また、私のには、FireFox(3)が、ブラウザとして入れてあり、無線LAN接続で使えるように設定してある。(HNGは、すくなくとも経験的には、IEよりも、FireFoxの方がきれいに表示される。)

で、もとにもどって、白川研の講演会。最後の質疑応答で、会場からの質問。「文字とシャーマニズムとの関係について?」。石塚先生も、ちょっととまどったような感じだったが、無事に済んだ。(基本的に、HNGは、「楷書」が成立して以降の、字体の規範あるいは標準を見ようとするものであるから、文字の起源とはかかわらない。)

だが、この質問は、当然ながら、白川漢字学をふまえてのものであることは、すぐに理解できる。

文字(この場合は漢字)が、成立したとき、筆画による記号的存在から、なにがしかの飛躍があったことは確かだろう。また、同時に、音声言語との対応関係においても、飛躍が必要。かりに表音文字の成立を考えるとしても、その文字がとらえる音声(あるいは音韻)の単位の認定が、必要。

さて、絵文字であるが、すぐにこれを「文字」であるとは言いにくい面があることは確か。しかし、単なる、記号(「?」や「…」句読点など)以上のなにかを表現していることは確かである。

逆に考えてみると、近代において、活字による出版が一般化し、また、現在のようなコンピュータによるコミュニケーションが普通になっている。では、このとき、人間は、「純粋なテキスト」によってコミュニケーションしているのか、あるいは、ある種の感情や身体性を付与しているのか(どの種類の活字をつかうのかなども問題、HTMLなら大きさ・色を変えることは容易)。

また、一方で、音声言語のコミュニケーションにおいて、「純粋なテキスト」を見いだせるか?

このあたりのこと、『論集 文字』(仮称)で、もらった師さんの原稿を読みながら考えてみた。(これで、原稿としては、だいたいそろったので、最終的な編集・組版の作業にうつる。)来月の、国立国語研究所での第2回「ワークショップ:文字-文字の規範」までには、広告のチラシなど用意できるようにしたい。

當山日出夫(とうやまひでお)

新常用漢字:しんにゅうのてん(2)2009-01-13

2009/01/13 當山日出夫

先に、1月9日に書いた件について、安岡さんより、コメントをいただいている。読売新聞の昨年の記事。明日にでも、早い目に学校に行って、図書館にたちよることにしよう。(安岡さん、どうもありがとうございました。)

そういえば、「しんにゅう」の「てん」が一つか二つかをめぐって議論することの無意味さを、一昨日の白川研の講演会で石塚先生も、おっしゃっていた。書体と字体の階層性。また、字体とは、地域と時代を限定しないと意味がない、ということをふまえての話し。(私の理解する範囲においてであるが。)

新常用漢字の最大の問題点は、それはそれとして閉じた文字の体系を作ったとしても、現実の日本語の表記における運用では、絶対にほころびが生じるであろう。

第一には、文字セット(字種)のレベルでは、「表外漢字」「JIS漢字」さらには「ユニコード」と、併用せざるをえない。固有名詞で、都道府県名まではカバーできても、そのしたの、市区町村のレベルになると、もう無理である。

第二には、書体を明朝体で規定することになってしまうこと。対応策として手書き字体との関係を例示せざるをえない。教育を視野にいれれば、これは、絶対に必要。明朝体どおりに書くことなどできないのであるから。そして、そのうえで、明朝体にも、種々の種類があること。デザイン差。さらに、字体の包摂。これらを、どのように、総合的に説明するか。

では、新常用漢字を決めることの意味・目的はいったい何であるのか。振り出しにもどってしまう。まあ、目的を明確にしないで、ことを始めてしまったことになるのかもしれない。だが、ここは、観察者の視点で、というわけにはいかない。日本語の文字を使っている一人一人が、ひとしく当事者である、という認識でのぞみたい。

公的な規範であるからこそ、人々の一人一人が当事者なのである。委員会だけが、当事者ではない(責任はあるかもしれないが)。

當山日出夫(とうやまひでお)

新常用漢字:WS文字のプログラムの更新2009-01-13

2009/01/13 當山日出夫

2009年2月7日の国立国語研究所での、
「第2回 ワークショップ:文字ー文字の規範ー」

この最新のプログラム。

http://www2.kokken.go.jp/egov/ws_moji090207.html

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プログラム(予定)

13:15-13:30 基調報告  當山日出夫(立命館大学グローバルCOE)
「景観文字と字体規範-「祇園」のその後-」

13:30-14:00 発表(1)  小形克宏(フリーライター)
「表外漢字における略字体の普及と衰退」

14:00-14:30 発表(2) 小池和夫(築地電子活版)
「JIS X 0213 漢字の選定規準とその問題―JIS X 0213では漢字の選定については,区点位置詳説を掲載していない。選定にあたってはWGで長時間の議論が行なわれたが,最終的に選定の規準を確定することはできなかった。十年一昔というが,選定から10年を経た今,選定にあたってWGでどのような議論があったのか,いくつかの実例を示して検証してみたい。―」

14:30-15:00 発表(3)  狩野宏樹(イワタ)
「字形規範とフォントデザイン」

15:00-15:15 休憩

15:15-15:45 発表(4)  師茂樹(花園大学)

15:45-16:15 発表(5)  池田証寿(北海道大学)
「字書記述と実用例とを連関させた漢字字体の研究方法について」

16:15-16:45 発表(6)  林立萍(台湾大学)
「台湾の大学入試センターの日本語語彙表に見られる漢字」

16:45-17:00 休憩

17:00-18:00 全体討論

終了後,懇親会を予定しています。

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當山日出夫(とうやまひでお)