『情報歴史学入門』2009-05-27

2009/05/27 當山日出夫

後藤真・田中正流・師茂樹.『情報歴史学入門』.金壽堂出版.2009

この本の著者のひとりである師さんから、すでに紹介がある。
もろ式:読書日記
http://d.hatena.ne.jp/moroshigeki/20090523/p1

Amazon式に評価するなら、★★★★☆

あえて、☆(マイナス)を一つにした。その理由は、「では、新しい情報歴史学とはどのような「歴史」であるのか」、いまひとつ明確に見えないからである。

だが、これは、欠点というべきではない。現在、デジタル技術をつかった新しい人文学が、各方面で模索されている。立命館のデジタル・ヒューマニティーズ、東京大学の次世代人文学、同志社大学の文化情報学部、などなど。しかし、これらのプロジェクトを概観すると、個々の研究として成果はあるものの、全体として、人文学の未来への確かな展望がはっきりしない。そのなかにあって、この本は、「歴史学(考古学をふくむ)」+「デジタル技術」にとどまらず、周辺の種々の研究領域(民族学や社会学など)から学ぶべきことがらを多く示唆している。

たとえば、まず、冒頭の「情報歴史学の目指すもの」には、

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情報学的知識と一言でいっても、その方向性は多岐にわたる。そもそも、コンピュータを用いないこともあるかもしれない。(p.1)

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さりげなく書いてあるが、この確信犯的な宣言を見逃してはならない。また、次のような箇所、

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●データベースの対象と作られたものとの「距離」
(中略)
しかし、そのような対象者からの「批判」を受けた場合に、「これは学術的に正しい」ということで単純につっぱねるのはよくない。説明を尽くし、理解を求めることが重要である。言い換えれば、データベースを作成する際には、そのような「説明」ができるようなものを作成しなければならないのである。/学術的な成果と、対象との距離というのは難しい。阿(おもね)るのではなく、かつ、下に見るのでもないという関係というのを常に考える必要がある。(p.147)

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ここまで、深くふみこんだ記述は、私が知る限り、デジタルと人文学について書かれたもので、そうそうあるものではない。この本、「入門書」「教科書」として書かれてはいるが、随所に、デジタルと人文学の本質的な問題提起がある。それを読み解ける、あるいは、メッセージとして理解できる人間にとっては、「★★★★★★★★★★」の評価になるだろう。

ついでにいえば、できれば、巻末に索引が欲しい。本書のなかには、画像データのことが何カ所かに記載がある。その都度、JPEGが不可逆圧縮であることの注意がある。JPEG・TIFF・RAW、さらには、JPEG2000、これらは、一つのコラムにまとめてしまった方がよかったのではと思える。

人文情報学に関心のある人間にとっては、必読の一冊である。

當山日出夫(とうやまひでお)

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