『街場のメディア論』:書物「虚の需要」2010-08-23

2010-08-23 當山日出夫

内田樹.『街場のメディア論』(光文社新書).光文社.2010

この本は、後半の方は、電子書籍論となっている。この意味で、一読の価値ありと思う。特に次のような箇所、

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この世界に流通している書物のほとんどはその所有者によってさえまだ読まれていない。書物の根本性格は「いつか読まれるべきものとして観念されている」という点に存します。出版文化も出版ビジネスも、この虚の需要を基礎にして成立しているのです。
p.164

※文中「虚の需要」には傍点。

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いま、世上の多くの電子書籍論の多くは、書物=買う=読む、直線的に結びつけて考えているようにおもえてならない。だが、本は、「読む」ためだけに買うものであろうか。

少なくとも個人の蔵書というのは、読むためだけではないであろう。その本をいつか読む日の将来の自分の姿のために、いまから用意しておく、このような性質を持っている。

一方で、買って、即座に読んで、読み終わったら終わり、という意味での、きわめて実用的な本もある。本もいろいろ、本のあつめかた、買い方もいろいろである。

上記「虚の需要」だけが本の需要のあり方ではない。しかし、本というものの、少なくとも現在の、ある種のあり方を示していることは確かである。

これを音楽とくらべるとどうなるか。音楽の場合、ここでいう「虚の需要」を音楽配信は駆逐してしまった、といえるかもしれない。書物(電子書籍)も、このような運命をたどることになるのだろうか。

當山日出夫(とうやまひでお)

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