『白夜に惑う夏』2010-09-01

2010-09-01 當山日出夫

やっと読み終わった。

『白夜に惑う夏』(創元推理文庫).アン・クリーヴス,玉木亨(訳).東京創元社.2009

奥付を見ると、2009年(去年だ!)の7月になっている。去年の夏に読もうと思って買って、すぐに読めずに、月に一度ぐらいの割合で、ちょっとづつ読むということになってしまった。

一般的にいって、このてのミステリは、いっきに読んでしまった方が面白いにきまっているのだが、しかし、この作品、なぜか、途中で放棄しないままで、一年間もかかってしまった。それでも、最後まで、読める!

最初の出だしはとても魅力的。だが、話が本筋になると、とくに、大事件・大活劇があるというわけではなく、淡々と、北のシェトランド諸島の、人々の日常生活が描かれる。その中に、ところどころに挿入される、何かしらひっかかる謎のいくつか。

あっと驚く結末というよりも、北の小さな島に暮らす人々の日常の生活の延長にある、ごく自然な出来事としての事件、そんな感じで、事件は週末を迎える。ま、人によっては、あるいは、いっきに読んでしまえば、別の感想をいだいたかもしれないが、一年かけて読んだ感じとしては、こんなところ。

時間がゆるすなら、やはりいっきに読んでしまうにこしたことはない。

この作品、前作『大鴉の鳴く冬』にひきつづく、シェトランド諸島を舞台とした四部作の第二作目にあたる。ミステリとしては、前作『大鴉……』の方がいいかなという感じもするが、これからつづく四部作をとおして、評価したい作品である。

當山日出夫(とうやまひでお)

コンピュータと教育についての本2010-09-02

2010-09-02 當山日出夫

広告につられて、買ってしまったのだが、あまり感心しなかった。

『デジタル教育は日本を滅ぼす』.田原総一朗.ポプラ社.2010

これを読む前に、とりあえず、次の本は読んでおいた方がいい。いくつか、自分の本棚から持ってきてみた。

『コンピュータが子どもの心を変える』.ジェーン・ハーリー/西村辨作・山田詩津夫(訳).大修館書店.1999

『コンピュータに育てられた子どもたち』.アリソン・アームストロング チャールズ・ケースメント/瀬尾なおみ(訳).七賢出版.2000

『コンピュータが子供たちをダメにする』.クリフォード・ストール/倉骨彰(訳).草思社.2001

いわゆる電子書籍の時代である。教育現場に、新たな形でコンピュータがはいってこようとしている。iPadを学生に使わせるという大学もある。電子教科書についても、いろいろとりざたされている。このような時代にあってこそ、コンピュータ(パソコン)のまだ初期の時代といっていいであろう、一昔まえに書かれた、これらの論考を再読吟味する価値はある。

少なくとも、上記の3冊の本は、私のおすすめである。

當山日出夫(とうやまひでお)

翻訳者で本をえらぶ2010-09-03

2010-09-03 當山日出夫

誰が翻訳しているかで本を選ぶ……という人はあまり多くはないかもしれない。しかし、気にいった本の訳者はおぼえているものである。そして、次に同じ訳者であれば、その本を買っても、まず、はずれはない。ま、少なくとも、翻訳ミステリの分野においては、いえそうである。

いま、読んでいるのが、『余波』(ピーター・ロビンスン、講談社文庫)。作品としてもいいが、日本語もいい。訳しているのは、野の水生。あまり見かけない名前であるのだが、本の奥付の紹介を見ると、「幸田敦子」と同一人物とある。ナルホドとうなづける。

ちなみに、野の水生、グーグルで検索する、次の箇所がヒットした。

やまねこ翻訳クラブ 野の水生
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/akoda.htm

海外ミステリ以外に、児童書も訳しているひとなのか……と、なんとなく感心してしまう。

ところで、『余波』である。ピーター・ロビンスンという作家。創元推理文庫でも何冊か出ていて、講談社文庫でも、いくつか作品がある。しかし、あまり、日本では、話題になることが少ない作家のようである。

だが、私の好みではある。伝統的な、英国の、警察官を主人公にしたミステリの、きちんとした作風が好きである。そして、野の水生さんの訳した本であれば、おすすめである。

當山日出夫(とうやまひでお)

JADS秋季研の募集2010-09-04

2010-09-04 當山日出夫

JADS(アート・ドキュメンテーション学会)で、秋季研究発表会(於同志社大学、寒梅館)の発表者を募集している。せっかく絶好の場所であるのに、今回、なぜか集まりが悪いようである。とりあえず、ここにも掲載してみる。発表を希望される方は、是非、応募してもらいたい。

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2008 年度より、アート・ドキュメンテーションに関わる若手の研究発表の場として秋季研究発表会を新設しました。

本年度、第 3 回秋季研究発表会を開催いたします。つきましては、下記要項で研究発表を公募しますので、会員のみなさまの日頃の研究成果を奮ってお寄せください。

■募集対象

アート・ドキュメンテーションに関する研究・事例報告・調査報告等で、会員個人による発表、もしくは会員を代表者とするグループ発表。

■募集発表数:若干名 1 発表 20 分(発表 15 分、質疑 5 分)

いただいた募集をもとに、行事・企画委員会において研究発表者の選考を行います。

■ 発表申し込み 〆切 9 月 5 日( 日 )

1) 発表者名・ふりがな ( 所属のある場合は所属も記載 )
2) 連絡先
3) 発表タイトル
4) 発表要旨 200字程度
5)インターネット使用の有無

■ 申込先

行事・企画委員会 jadsevent■gmail.comまで(■を@に変更してください)
件名を「2010 秋季研申し込み(氏名)」と してメールにてお申し込みください。

■ 研究発表者選考

9 月 14 日( 火 ) 発表決定者へ通知
行事・企画委員会において研究発表者の選考を行います。

■ 予稿集原稿〆切 10 月 12 日( 火 )必着

選考された研究発表者には、おって予稿集原稿の作成仕様ならびに提出先をお送りします。
氏名、タイトル等を含んでA4で4枚以内、WordもしくはPowerPointの完全版下原稿におまとめいただくことになります。


■ 開催日時と会場ならびに参加費

日程:11 月 14 日(日)
会場:同志社大学 寒梅館
※地下鉄 烏丸線 今出川駅 2番出口
今出川キャンパスではなく、室町キャンパスですのでご注意ください。
アクセスマップ http://www.doshisha.ac.jp/access/ima_access.html
研究会参加費:有料(資料代ほか。金額については調整中)
最終案内は、学会ホームページ  http://www.jads.org  において広報いたします。

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當山日出夫(とうやまひでお)

『ARG』443号の感想2010-09-06

2010-09-06 當山日出夫

しばらくお休みにしていた、『ARG』の感想を再開することにする。今回の号は、443、次は、いよいよ、444、ということになる。また、発行部数も、5040部となっている。5000をこえて、444をこえて、さらにがんばってもらいたい。(いや、がんばってもらわないとこまるのである。後期のある授業では、学生と一緒に、「ARG」を読もうということにしてあるので・・・)

さて、今回の号、まず目につくのは、図書館からはじめるデジタルアーカイブ、である。

「9月24日(金)~25日(土)開催、第1回Code4Lib JAPAN Workshop
     「図書館からはじめるデジタルアーカイブ」、参加申込を開始」

個人的には、デジタルアーカイブという用語はなるべく使わないでおこうとしている。いろんな意味で、誤解を生じかねない。特に、生粋の(?)「アーキビスト」であるような人たちとのあいだで、議論のすれちがいが生じかねない。

が、それはそれとして、一方で思うことは、いわゆる「デジタルアーカイブ」をになっていくのは、これからは、図書館だな、ということ。今回の企画、「図書館からはじめるデジタルアーカイブ」を見てみると、その趣旨は、アーカイブズの趣旨にそうはずれたものではないことがみてとれる。

それは、次の表現に端的に表現されている。

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地域の記録を次の時代に伝えるという図書館のミッションを実現していきましょう。

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このような地域の記録をきちんと保存していくという機能についていえば、現在の日本では、図書館がまず思い浮かぶ。逆にいえば、日本においては、文書館が未整備である、ということにもなるのであるが。

しかし、どこかがその地域の記録を残していかねばならないなら、そして、現状では文書館が未整備であるのなら、図書館が、それをになってもよいではないか。

私としては、このとりくみに、賛成したいと思う。

當山日出夫(とうやまひでお)

内閣府、「障害」の表記についての意見募集2010-09-11

2010-09-11 當山日出夫

内閣府で、「障害」の表記についての意見募集、というのをやっている。
9月10~30日

内閣府 「障害」の表記についての意見募集
https://form.cao.go.jp/shougai/opinion-0004.html

あまり、新聞などでは、とりあげられないようであるが、「碍」の字を改定常用漢字表にいれるか、いれないか、問題になったいきさつがある。これは、「障がい者制度改革推進会議」の仕事のひとつとしておこなわれるものである。

この種のパブリックコメント、これがあること自体が、あまり広報されないということも問題かもしれないと思う。

當山日出夫(とうやまひでお)

DVD版内村全集について書きました2010-09-14

2010-09-14 當山日出夫

このごろ書いているテーマというと、DVD版内村鑑三全集のことが多い。その最近のもの。

ニッシャ印刷文化振興財団
AMeeT

http://www.ameet.jp/

ここに、

デジタルアーカイブの現場から、のコーナーに書いている。DVD版内村鑑三全集のほかにも、電子書籍について、また、そこにおける印刷業の役割について、思うところをいささか述べてある。

當山日出夫(とうやまひでお)

『ARG』444号の感想2010-09-17

2010-09-17 當山日出夫

『ARG』444号の感想である。発行部数5042部。個人的に勝手なことをいえば、『ARG』の活動はこれからだな、と思う。ARGの活動も、新たな段階にさしかかってきたのではないかなと予感する。

その一つは、まず、

「関西ウィキメディアユーザ会設立のお知らせ」(関西ウィキメディアユーザ会)

である。私自身、昨年の、ウィキメディア・カンファレンス2009(東京大学)に行って話しをしてきている。その経験から言って、このような自主的な会ができて、活動をはじめているというのは、実に頼もしい感じがする。そして、それが、ARGという場で紹介されることにも意義がある。

ただ、私は、Wikipediaについては、(特に、日本の)については、全面的に、信頼しているというわけではない。しかし、その可能性については、非常に期待している。

基本的には、百科事典的な知識とはなんであるか、言い換えれば、独自研究ではない、一般的に共有できる知識とは、どのようなものであるべきか、ということになるのかと思う。また、その一般のレベルも、専門的知識の程度によって様々である。しかし、百科事典的な知識とは、そもそもなんであるかは、まさに今といかけなおすべきときにきているように思える。

それは、一方で、WEB自体が、グーグル検索などと一緒になって、一つの巨大な百科事典のようになりつつある、という現象が片方にあるからである。このような状況の中にあってこそ、では、そもそも、百科事典的な知識とはどんなものであるのかが、きちんと考えられなければならない。

このことの意義は重要なものだと思っている。

それから、特に、教育現場で、Wikipediaをどのように活用していくのが、よいのか。完全に否定するのでもなく、野放しで利用でもなく、その特性をふまえたうえで、よりよく活用するには、どんなふうにすればいいのか。これも、実は、まだ始まったばかりであるといえよう。

次に、「第9回ARGカフェ&ARGフェスト@京都への招待(9/19(日)開催)」。

急にきまったことなので、ARGカフェの方には、残念ながらまにあわない。後半の方だけ、どうにか参加できる予定である。いずれ、これも、ライトニングトークの内容など、ブログなどで紹介されるだろう。たのしみにしている。

當山日出夫(とうやまひでお)

第16回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」2010-09-18

2010-09-18 當山日出夫

ことしも、例年のごとく、「人文科学とデータベース」シンポジウムの季節になりました。本年の開催概要は以下のようです。MLで流れてきたものを、適宜、転記します。

人文系データベース協議会
http://www.osakac.ac.jp/jinbun-db/5.html

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論文募集
第16回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」

開催日: 2010年11月27日(土)
会 場: 花園大学 拈花館202
  (京都市中京区西ノ京壺ノ内町8-1)

【主催】第16回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」実行委員会
【後援】人文系データベース協議会

【募集論文テーマ】
今回は、例年のテーマに加え、特に次のテーマでの投稿を歓迎いたします

特集テーマ:
・大学における人文科学とコンピュータ関連の教育
・文化遺産研究におけるコンピュータの利用

一般テーマ:
・人文科学や芸術におけるデータベース構築の企画、事例、応用、支援ツールや周辺技術に関する研究
・人文系における地理情報処理に関連する研究
・人文系における数理モデルに関する研究
・人文系データについての情報処理的研究

【応募期限】
★講演発表申込締切 2010年10月1日(金)
氏名・所属・論文タイトル・内容あらまし(200字程度)・住所・Emailアドレスを事務局までEmail等でお送りください。

★論文集原稿提出締切 2010年10月28日(木)
実行委員会所定の様式(発表申込者に送付)にしたがって執筆のうえ事務局に送付してください。図表込で約8~10ページ程度です。

【事務局】
後藤真
花園大学 文学部 文化遺産学科
〒604-8456 京都市中京区西ノ京壺ノ内町8-1
m-goto■digitalhistory.jp
Tel:075-811-5181
Fax:075-811-9664

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當山日出夫(とうやまひでお)

ARGカフェ&フェスト2010-09-21

2010-09-21 當山日出夫

先日、9月19日(日)、京都でのARGカフェ&フェストがあった。

http://d.hatena.ne.jp/arg/20100920/1284987213

あいにくと、昼間は用事が別にあったので、前半のARGカフェの方は欠席せざるをえなかった。恒例となっているライトニング・トークのテーマも多彩。行きたかったのではあるが。(ただ、今回の場合、図書館系のテーマが多かったという気はどうしてもする。これは、日程上、奈良での図書館大会と連続としているということから、やむをえないのかもしれないが。)

図書館に軸足をおいてある。最近のARGは、よくもわるくも、図書館の方向を向いている。

これを、私なりにプラスに見るならば、やはりこれからの、MLA連携の中軸をになっていくのは、図書館であると思う。この意味において、博物館や文書館の立場からも、図書館の存在というものに、もっと着目してよいのではないだろうか。

とにかく、全国に、公共図書館、大学図書館などをふくめれば、膨大な図書館がある。そして、それぞれに、その組織のなかで活動している。と、同時に、相互の連携のシステムも、それなりにできあがっている。

図書館を中心とした、地域や組織に密着した「デジタル・アーカイブ」、そして、その相互の連携。この延長に、M(博物館・美術館)や、A(文書館)などが、うまくつながっていくと、より実りのあるものになっていくだろう。

ただ、そうはいいながら、ARGが、もともともっていた役割……インターネットの学術利用の推進、ということからすると、もうちょっと、この方面にも力をいれてもらいたい気もするのである。新しいサイトの紹介はもちろん、様々な苦言をふくめて、この方向にも期待したい。インターネットの学術利用は、今後、ますます、重要になっていく領域である。

前述の、図書館を中心としての「デジタル・アーカイブ」という方向にしても、まず、WEB環境で考えることになる。この意味で、狭義に図書館のWEB利用にとどまらないで、それをふくんで、MLA全般にひろげて、WEBの学術利用、という方向にも、ちからをそそいでもらいたいと思っている。

総合的なWEBの学術利用という観点から見てこそ、図書館でのWEB利用もその価値を発揮できるというものだろう。なんのために図書館をつかうのか、ということの原点にたちかえってみるならば、より広い視点から考えることが、今後より重要になってくるのではないかと思う次第である。

と、このように考えるのは、後期の授業で、学生と一緒に『ARG』を読んでみようかと思っているからでもある。『ARG』で紹介されているHPを、実際に自分でクリックしてみて、内容をみてみる。そして、『ARG』のコメントについて自分なりに考えてみる。できれば、それを、学生自身がプレゼンテーションしてくれる。そんなことを考えているのである。

當山日出夫(とうやまひでお)