荒木優太『これからのエリック・ホッファーのために』2016-06-15

2016-06-15 當山日出夫

荒木優太.『これからのエリック・ホッファーのために-在野研究者の生と心得-』.東京書籍.2016
http://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/80975/

この本は、もとはインターネットの連載記事である。

En-Soph
http://www.en-soph.org/

在野研究のススメ
http://www.en-soph.org/archives/cat_1136595.html

本のサブタイトルにある「在野研究者」とは、大学とかの研究機関に所属しないで、研究活動をする研究者のこと。その事例研究とでも言おうか。

エリック・ホッファー(1902-1983)とは、アメリカの在野研究者。沖仲仕などの仕事をしながら論文・著作をあらわした。

エリック・ホッファー(中本義彦訳).『エリック・ホッファー自伝』.作品社.2002
http://www.sakuhinsha.com/philosophy/4735.html

エリック・ホッファー(田中淳訳).『波止場日記-労働と思索-』.みすず書房.2014
http://www.msz.co.jp/book/detail/08374.html

この本であつかっている研究者は、すべて故人としてある。名前をしめせば……

三浦つとむ(哲学・言語学)
谷川健一(民俗学)
相沢忠洋(考古学)
野村隈畔(哲学)
原田大六(考古学)
高群逸枝(女性史学)
吉野祐子(民俗学)
大槻憲二(精神分析)
森銑三(書誌学・人物研究)
平岩米吉(動物学)
赤松啓介(民俗学)
小阪修平(哲学)
三沢勝衛(地理学)
小室直樹(社会科学)
南方熊楠(民俗学・博物学・粘菌研究)
橋本梧郎(植物学)

はっきりいって、知らない名前もあったりするのだが……最初に出てくる三浦つとむ、この人の著作は読んでいる。本棚を探せば、まだどこかにあるはずである。

たぶん、私の世代なら名前ぐらいは知っているだろう。直接、三浦つとむの著作を読まないまでも、『言語にとって美とはなにか』(吉本隆明)で名前ぐらい見たことがあるはずである。

吉本隆明.『吉本隆明全集』第8巻.晶文社.2015
http://www.yoshimototakaaki.com/dai8kan.html

かくいう私も、『言語にとって美とはなにか』で名前を知って読んだ。まだ、私が学生のころである。そのころは、三浦つとむの本は、普通に書店で買えた。この人が、すぐれた言語学の研究者であるという認識はもっていたが、それほど深く傾倒することはなかった。やはり、在野の人であったせいかもしれない。だが、ガリ版切りで生計をたてていたということまでは、この本を読むまでは知らなかった。あるいは覚えていなかった。

それから、高群逸枝……『火の国の女の日記』(たしか講談社文庫)を読んだのは学生のときだった。それから、『娘巡礼記』(たしか朝日選書)も読んだりした。(高群逸枝のことについては、また別に書いてみたい。)

森銑三、ここに名前が出てくるので、ああそうか、このひとも在野のひとであったのだなと、あらためて感じいったりである。

ところで、重要なことは、ここにあげられた在野研究者もそうなのであるが、著者(荒木優太)自身が、在野のひとである。どこかの大学につとめているというわけではない。その立場で、在野に身をおきながら研究にうちこむときの、こころがまえとか、注意点とか、危惧すべき点とか、書いてある。

だからといって、その答えがひとつにまとめて、解答として書いてあるという本ではない。むしろ、この本のいわんとするところを端的にあらわしているのは、本の帯の

「勉強なんか勝手にやれ。やって、やって、やりまくれ!」

であろう。

著者は、「あとがき」でこう記している、

「私はことあるごとに大学教授から、研究者になりたいのなら教師になるしかない、と言われていた。研究職とは同時に教職である。(中略)/なにが嫌だったのか。いろいろあるのだろうが、おそらく一番大きかったのが、研究者イコール教師であるという自明の認識を押しつける、その無自覚な鈍感さに私は耐えられなかったのだ。」(p.250)

すでに言われていることではあるが……この本は、これから大学院にすすんで学問の世界で生きていきたいと思っているような若い学生が、まず読んでみるべきだろう。研究者として大学に籍をおく専任の教員ではなくても、研究はできるのだ、ということを教えてくれる。また、在野には、在野に向いた研究分野があることも。

そして、そういえば……私の師匠(国語学)も、在野のひとであったのである。すでに亡くなってひさしいが。ふと、そんなことを思ってみたりもする。

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