『夫婦善哉』あれこれ2016-06-16

2016-06-16 當山日出夫

『夫婦善哉』について、思いつくまま書いてみたい。

NHKの土曜日『トットてれび』を見ている。森繁久弥がでてくる(吉田鋼太郎)。この時代の、つまり、テレビの草創期の森繁久弥といえば、たぶん、『夫婦善哉』(映画)かなと思って見ていたりした。

では、『夫婦善哉』といって、ひとは何をまず思い浮かべるだろうか。ふと、小説を読んでおくべきだと思って、読んでみることにした。

(1)織田作之助の小説『夫婦善哉』(初出は、昭和15年。)
小田作之助.『夫婦善哉』(岩波文庫).岩波書店.2013
https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/31/9/3118520.html

(2)これは、映画『夫婦善哉』で有名になった作品であると認識している。森繁久彌・淡島千景、豊田四郎監督、昭和30年(1955年)。

(3)NHKのドラマ『夫婦善哉』も最近のものとしてある。森山未來・尾野真千子、平成25年(2013年)。
http://www6.nhk.or.jp/drama/pastprog/detail.html?i=meotozenzai

(4)石川さゆりの歌っている『夫婦善哉』も思いうかぶところである。昭和62年(1987年)。

私の場合、(2)の映画(1955)は見ていない。

(1)については、岩波文庫で読んだ。読んでみての感想としては……

まず、大阪の小説だな、という印象。大阪を舞台にした小説といえば、『細雪』(谷崎潤一郎)を思い浮かべるが、この作品は、それとは違う大阪を描いている。もっと庶民的な猥雑な世界である。

ただ、私個人にしてみれば、あまり大阪の街にはなじみがない。知っている街といえば、京都と東京ぐらいである。

戦前の大阪の街の風俗とはこんなものだったのか……と、いろいろと興味をひかれるところがある作品である。とはいえ、小説として面白いかどうかとなると、正直いってあまり面白いとは思わなかった。

それよりも、今の私にとっては、先年放送した、(3)のNHK版『夫婦善哉』のドラマのイメージが強すぎるので、「ああ、あのシーンは、もとの小説では、こんふうに書いてあったのか」と逆の方向で、納得するようなところが多い。ドラマの中での食事シーンや、いとなんでいる店のシーンは、印象的な場面が多かったが、それがどのように原作の小説で出てくるかも興味深い。

このドラマ、気にいって、録画して見て、たしか2~3回は繰り返して見た記憶がある。

それから、(4)の石川さゆりの『夫婦善哉』の歌である。これは、私のお気に入り。そんなに多く石川さゆりのCDを持っているというわけではないが、持っている中では一番気にいっている曲といっていいのではないだろうか。

石川さゆり『夫婦善哉』たぶん、時期的なことを考えれば、(2)の映画版『夫婦善哉』のイメージがもとになっているのだろうと推測する。しかし、そのようなこととは独立して、歌として聞いていて、非常にいい。石川さゆりの歌の特徴は、その情感表現のたくみさと、それと同時に、わかりやすさにあると思っている。

たぶん、『夫婦善哉』というのは、日本の大衆文化のなかで、今後も生き続けていくものであるにちがいない。