白井聡『戦後政治を終わらせる』2016-06-25

2016-06-25 當山日出夫

白井聡.『戦後政治を終わらせる-永続敗戦論の、その先へ-』(NHK出版新書).NHK出版.2016
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000884852016.html

この本、前半……「永続敗戦論」の解説として読めば、それなりの説得力があるのだが、では、その後半として……具体的にどうすればいいのかとなると、的確な方針がしめせていないように、私は読んだ。

白井聡.『永続敗戦論-戦後日本の核心-』.太田出版.2013
http://www.ohtabooks.com/publish/2013/03/08173037.html

私の理解したところでいえば……「永続敗戦論」とは、昭和20年の敗戦の事実をそれとして直視しない姿勢であり、その後にうまれた、いわゆる55年体制が、1990年代以降、冷戦の終結とともに、その役割を終えたにもかかわらず、ずるずると現代にいたるまで、つづいている状態……ということに要約できるであろう。

これはこれとして、ナルホドとおもわせる議論の立て方ではある。ただ、これも、いわゆる左翼的な立場からの分析ではあるけれども、同じようなことは、逆の、いわゆる右翼・保守的な立場からも、同様の意見は出されている。なにも、左翼側だけの特権的見解というわけではない。

序章  敗戦の否認は何をもたらしたか
第一章 五五年体制とは何だったのか
第二章 対米従属の諸相(一) 自己目的化の時代へ
第三章 対米従属の諸相(二) 経済的従属と軍事的従属
第四章 新自由主義の日本的文脈
終章  ポスト五五年体制へ

とあるうち、第四章あたりまでは、なんとか議論についていける。しかし終章あたりになると、これでいいのだろうかと思ってしまう。

「戦後レジームからの脱却」には、「三つの革命」が必要だという。いわく、「政治革命」「社会革命」「精神革命」。

「政治革命」としては、たとえば、「二〇一六年の参院選を視野に入れた野党の共闘についてに合意形成です」とする。しかし、これで、再び政権交代となったところで、どうなるというのだろう。これを「革命」というのなら、以前の民主党政権のときのことを、まず総括しないといけない。それでもダメだったから「永続敗戦論」ということになったのではなかったのか。

「社会革命」としては、「近代的原理の徹底化を図るということです」そしてそれは具体的には「基本的人権の尊重、国民主権の原理、男女の平等」であるという。しかし、本当に「革命」がおこったら、このようなものこそまっさきに蹂躙されるものではないのだろうか。それに、これらの「徹底化」を「革命」というのはどうかと思う。

「精神革命」としては、「要するにそれは、意思の問題です」という。

これは、もうなにをかいわんや。意思の問題でことが解決するなら、とっくにどうにかなっている……と思わざるをえない。戦後の政治・社会がどのようなものであったかについての、一定の図式を考えてみたいというむきには、確かにそうかなという気はするのだが、では、これから具体的にどうすればいいのかの議論になると、最後は、「意思の問題」つまりは、スローガンに終わってしまう。最後は精神力だというのなら、かつての大東亜戦争・太平洋戦争のときの日本に逆戻りではないか。

問題点の分析はできるけれども、それに対する的確な処方はしめせていない、その典型のように読める本である。さらにいえば、的確な対処法がしめせないということは、そもそもの問題の分析に疑問点がある、と思うべきかもしれない。

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