長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』「ホッブズを読むルソー」2016-07-21

2016-07-21

長谷部恭男.『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書).筑摩書房.2004
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480061652/

まず、加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』について書いたとき、長谷部恭男の本への言及(ルソー)について、ふれた。

やまもも書斎記 2016年7月9日
加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』憲法とE・H・カーのこと
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/09/8127772

やまもも書斎記 2016年7月12日
長谷部恭男『憲法とは何か』「冷戦の終結とリベラル・デモクラシーの勝利」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/12/8129901

この本『憲法とは何か』には、注がついている。そこを読むと、つぎのようにある。

「ジャン=ジャック・ルソーのホッブズ批判は、彼の遺稿「戦争状態論」(中略、原著名など)で展開されている。拙著『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書、二〇〇四年)一一七頁以下に簡単な紹介がある。」(p.62)

これをみて、くだんのちくま新書の本を読んでみることにした。今回のその本でどのように記述されているかを確認しておきたい。

つぎのように記されている。第7章「ホッブズを読むルソー」。

「ただ、ルソーの批判は、この点にとどまっていない。彼が指摘するのは、そもそも人々の安全の確保を名目に国家が設立されたはずなのに、複数の国家相互の関係がなお自然状態にとどまっているため、国民の間の戦争と殺戮とがはるかに大規模なかたちで生み出されるというきわめて悲惨な現状である。」(p.117)

「ところで、ルソーは、「戦争」と「戦争状態」とを区別している。後者は現代社会では「冷戦」といわれるものに近い概念で、複数の国家が実際の戦闘行為に入ることなく、敵対的な関係にある状態である。」(p.119)

「二〇世紀は、核兵器を典型とする大量破壊兵器の世紀であった。(中略)そこでは、社会契約の解消というルソーの提案がより現実味を帯びてくる。しかもこの提案は、階級対立の解消による「国家の死滅」というマルクス主義の主張とも容易に合唱しうる。/そうした時代に、日本国憲法の文言をことばどおりに受けとる「非武装中立平和」というアイデアが多くの人々の心をとらえたのは、不思議なことではない。」(pp.126-127)

そのうえで、こうのべる、

「問題は、そうした提言(非武装中立のこと、引用者)がもたらすマイナスの側面をいかに評価するか、そして、それが立憲主義というプロジェクトとどのような関係に立つかである。」(p.127)

このような記述をみると、この本『憲法と平和を問いなおす』の書かれた時代背景を考慮しなければならないようである。まだ、冷戦の記憶が残っていたころ……マルクス主義、非武装中立ということばが余韻をのこしていたころ……冷戦の崩壊を理論的に考えると、そのようにも考えられるということで、ルソーのいっていることがもちだされている、と理解すべきだろう。

ここで、問題点は、二つ(あるいは三つ)あるかと思う。

第一に、このルソーの理論が、太平洋戦争にあてはまるかどうか。この点については、私は、妥当な解釈だと判断する。加藤陽子のルソー(あるいは、長谷部恭男)解釈が、否定されるということはないと思う。戦争に勝つ/負けるとは、憲法の書き換えを強制することでもある、この発想は、有効であろう。すくなくとも、近代の立憲国家どうしが戦争をした結果である、という観点からはそういえると考える。

第二に、だが、この理論が、現代のいわゆる「テロとの戦い」に適用できるかどうかは、別問題である、ということがある。テロリストは、そもそも立憲国家ではない。現代の国際社会の問題を、ホッブズのように、また、ルソーのように理解できるかどうかは、改めて検討されなければならないと思うのである。

さらに第三として、強いていうならば、南シナ海・東シナ海をめぐる中国の膨張主義が、あらたな「冷戦」をアメリカをはじめとする周辺各国との間に生じるならば、その終焉は、中国の体制の崩壊という形でありうるのかもしれない。このように予想することもできるだろう。

以上の、二つ(あるいは三つ)が、この本から考えてみたところである。『憲法と平和を問いなおす』については、さらにふれておきたいところがあるが、それは別にすることにする。

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