中国における権益と門戸開放2016-08-04

2016-08-04 當山日出夫

昨日のつづきで、一ノ瀬俊也『戦艦武蔵』からである。

一ノ瀬俊也.『戦艦武蔵-忘れられた巨艦の軌跡-』(中公新書).中央公論新社.2016
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/07/102387.html

孫引きにになるので、恐縮なのだが、興味深い箇所があったので書いておきたい。それは、なぜ、太平洋戦争にいたったのか、アメリカの態度と、中国における門戸開放についてである。

武藏、それから大和を生み出したのは、英米をふくめて各国の建艦競争とでもいうべきものである。それは、ある意味では、軍事的なバランスをたもつものであると同時に緊張ももたらす。

太平洋戦争の直接的な原因(これについてはいろいろな考え方があるであろうが)、その一つに、中国における権益をめぐっての日本と、英米の対立がある。この点について、著者(一ノ瀬俊也)は、次のように述べている。

「(建艦競争の)その背景にあったのは、日本と米英の中国をめぐる対立である。各国とも自分の言い分を通すために、その裏づけとしての軍事力、なかんずく海軍力を必要とした。争点の基本は大陸の諸権益だが、米国と英国では立場が違っていた。英国は中国に具体的な権益(天津、上海、香港といった通商の拠点)を持っていたが、米国にはなかった。それなのになぜ、日米は太平洋を挟んで対立していたのだろうか。」(pp.13-14)

これについては、歴史学者の北岡伸一の解説を引用してある。以下その孫引きである。

「「日中戦争によってアメリカが失い、あるいは脅かされていた現実の権益はわずかなものであった。問題は中国の統一と独立という理念であり、いつかアメリカの巨大な利益が生み出されるかもしれないという(中国市場の神話、ママ)想像上の利益であった。日本の中国侵略がかりに成功したとしても、それでアメリカが致命的なものを失うわけではない。こうした具体的な利害対立が少なかったゆえに、実は妥協が困難だったのである」(北岡『門戸開放政策と日本』)と。」(p.14)

そして、こうつづける。

「なるほど、具体的な利益のぶつかり合いなら相互に譲って妥協できるかもしれない。しかし理念同士の対立となると、どちらかが己の理念なり信念なりを枉げない限り、解決はできないのである。」(p.14)

だから、アメリカが悪いととも、逆に、日本は悪くなかったともいうことはないのであるが(とはいえ、やはり、日本が悪いということになるが)、太平洋戦争にいたる日米の対立が、かなり理念的なものであったがゆえに妥協点を見出すのが難しかった、この指摘は、重要だろうと思う。

そのようにいわれてみれば、アメリカという国は、具体的な権益で動いていると思える面もある一方で、理念的な判断をしていると思わせるところもある。このようなことは、21世紀の今日になってもかわならないのかもしれない。あるいは、今から、150年以上前、アメリカが日本に開国をせまったときから、継続していることなのかもしれない。

なお、この記事で引用(孫引き)した本は、次の本だろう。

北岡伸一.『門戸開放政策と日本』.東京大学出版会.2015
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-030155-8.html

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