長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』「公共財としての憲法上の権利」2016-08-11

2016-08-11 當山日出夫

つづきである。

長谷部恭男.『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書).筑摩書房.2004
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480061652/

やまもも書斎記 2016年8月10日
長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』「公私の区分と人権」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/08/10/8149048

憲法の定める権利には、公私の区別の上になりたつものもあれば、一方で、そうではないものもあるという。

「憲法上の権利のすべてが、こうした公私の生活領域の線引きを主な任務としているわけではない。それらのなかには、むしろ社会の利益の実現を目指して、憲法上保障されているものがある。これらは、「公共財としての権利」と呼ぶことができる。」(p.74)

そして、公共財としての権利のひとつとして、表現の自由がある。

「公共財のなかには、そのときどきの政治的多数派の決定によって、供給の量を変化させるべきではないものもある。たとえば、自由な表現の空間がそれである。」(p.76)

「自由な表現の空間が公共財であることは、その不可欠な構成要素である表現の自由という憲法上の権利も、また、公共財であることを意味する。こうした社会の枠組みの基礎をなすような、社会の長期的な利益を支えるような公共財については、そのときどきの政治的多数派の意図とは独立に、身分を保障された裁判官によって構成される裁判所が、その適切な提供を保障するのが、立憲主義諸国の通例である。」(p.77)

そのうえで、マスメディアの表現の自由に説き及ぶ。

「マスメディアは、その巨大な組織と資金力を通じて、個人とは比較にならない規模で情報を収集・処理し、伝達することができる。したがって、マスメディアが民主主義的政治過程の基礎をかたちづくる役割や、価値観や生き方の多様性を伝える役割も、普通の個人とは比較にならない。自由な表現空間が持つ公共財としての機能は、マスメディアの活動を通じて、大きな効果を挙げることになる。」(p.79)

しかし、その一方で、マスメディアも規制される場合がある。だが、最終的には、

「こうした規制された放送と自由な新聞の相互の均衡を通じて、社会全体には、豊かな情報が公平に提供される結果を期待できる。」(p.83)

そして、このようなこと(マスメディアの機能)は、民主主義における意思決定のあり方とも関連することになる。

「民主的決定のあり方は、結論へ向けてどのような情報交換をし、どのように議論を行うべきなのかという問題をも含んでいる。」(p.83)

多様な意見をとりいれることは必要であるとしても、そこには「多数者の英知」と「集団偏向」という、相反する概念がそこにある。

これらをふまえたうえで、こう結論づける。

「なるべく多様な見解を紹介し、単に周囲の人間がそう思っているからというだけではなく、根本の論拠にさかのぼって真剣に問題を考える態度を養うことが重要である。」(p.86)

おそらく、ここでいっていることは、憲法をめぐる議論……これからの問題としては、改憲……についても、そこでマスメディアのはたす役割を考えなければならない、ということになる。そして、なぜ、そう考えるのか、根本にさかのぼって議論することの必要性である。たぶん、改憲をめぐっては、様々な議論があることだろう。そのとき、単純に、護憲・改憲と判断するのではなく、なぜそのように思うのかが問われねばならない。

そういえば、昔、「ダメなものはダメ」と言った政治家がいたことを思い出すのだが、これからは、そうではいけないと私は考える。どんな反対意見があるとしても、多様な意見の表現と、議論をつくすことがもとめらえる。

確かに憲法をまもることは重要かもしれない。だが、それにとどまるのではなく、なぜ立憲主義であるのかを、つねに再確認していく作業が重要である。なぜ立憲主義の立場をとるのか、確認しつづけていかなければならない。

それから、この本『憲法と平和を問いなおす』は、今から10年以上前の本である。いまでは、インターネット上の言論空間がひろがっている。これもまた、公共財といってよいものであろう。その意味では、インターネット上の議論はどのようであるべきかという観点から、ここでの議論は再構築する必要があるように思う。

民主主義をささえる公共財としての表現の自由とインターネットという観点から、これから議論がすすめらなければならない。

追記 2016-08-12
このつづきは、
長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』天皇は憲法の飛び地
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/08/12/8150156