山内昌之『歴史家の羅針盤』2016-10-29

2016-10-29 當山日出夫

山内昌之.『歴史家の羅針盤』.みすず書房.2011
http://www.msz.co.jp/book/detail/07568.html

山内昌之の書評集。みすず書房刊行のものとしては、これが三冊目になるらしい。(前の二冊は、まだ見ていない。買っておかないといけないかなと思っている。)

この本のタイトル、「羅針盤」が象徴的である。

このところ、山内昌之の書いたものをよく読むようになってきているのだが、この人、現代社会において「羅針盤」となりうる人であると感じる。その書いていることに、すべて理解できているというわけではないのだが、安心して読める。

まず、歴史家(イスラームの専門家)としての着実な歴史研究を基盤があって、そのうえで、現代社会、近現代の日本、世界の歴史を見る視点は、秀逸である。

この本は、編年編集になっている。中をみると、たとえば、塩野七生の本がいくつかとりあげてある。これは、現代の歴史家として、きわめて良心的な態度だと思う。(おそらく、西欧史専門の歴史研究者は、無視するのが通例だろう。)むろん、歴史書として評価してのことではないにしても、なぜ、今、塩野七生の本が読まれているのか、そのことは、十分に考えるべき問題であると思う。

書評というものは、その本を批判することにあるのではないと思っている。そうではなく、その本の魅力をどう伝えるかに眼目がある。そして、できることなら、その本のエッセンスを伝えて、読者の導きとなるべきものだろう。この意味において、山内昌之の書いた書評は、特に歴史関係において、貴重な仕事を残してくれていると思う次第である。