ちくま日本文学全集『柳田國男』2016-11-02

2016-11-02 當山日出夫

このところ、古本を買っている。最近、買ったのは、

ちくま日本文学全集『柳田國男』.筑摩書房.1992

解説を書いているのは、南伸坊。文庫版の全集、という体裁のシリーズである。調べてみると、このシリーズは、体裁をかえて、今でも新本で売っているようだ。今売っているのは、2008年の刊行らしい。タイトルも、「ちくま日本文学」と変わっている。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480425157/

http://www.chikumashobo.co.jp/special/nihonbungaku/lineup/

この『柳田國男』であるが、収録作品を見ると、まず、
「浜の月夜」
「清光館哀史」
がのっている。それから、「遠野物語」「木綿以前のこと」など、柳田の代表的な作品が、収録、あるいは、抄録されている。おおむね「文学」の観点からみた柳田の文章がおさめられている。

『定本柳田国男集』も持っているのだが、このごろでは、このような手軽な編集の本が好みになってきた。柳田国男を論じるために読むというよりも、自分の楽しみの時間のために読む、そんな読書の時間をつかうには、ちょうどいい。文庫本サイズなので、ちいさいし軽い。とにかく、気楽に読める雰囲気の本づくりになっているのがいい。それから、このシリーズは、文字が大きい。これも、老眼になった身としては、とてもありがたい。

ところで、私は、これまで、「遠野物語」を通読したということがない。時に、ページを開くことはあっても、全部を読んではいない。理由は、こわいからである。「遠野物語」の文章を読むと、ぞっとするような恐怖を感じる。とても、全部をとおして読む気になれない。で、今にいたっている。

それほど、日本民俗学の文章というのは、読む人間にとって、迫力のあるものなのである。

これに近いものとして……『今昔物語集』の巻二十七があるのだが、この巻も、読んではいるのだが、夜ひとりで読んだりするのは、とてもこわい。

そのせいもあって、実は、『共同幻想論』(吉本隆明)を、あまりきちんと読んだことがないのである。『古事記』の引用はいいのだが、『遠野物語』の引用箇所を読むのに恐怖を感じることがあって、途中でやめたり、とばしたりしている。

年をとってきて、文章に対する感性もかわってきたと感じる。そろそろ、純粋な楽しみの読書の時間をつかうように、そのように生きていきたいものだと思っている。この意味で、手軽な文庫本はありがたい。