ボブ・ラングレー『オータム・タイガー』2016-11-07

2016-11-07 當山日出夫

ボブ・ラングレー/東江一紀(訳).『オータム・タイガー』(創元推理文庫).東京創元社.2016
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488237059

このての冒険小説を読まなくなってひさしい。読後感としては、ひさしぶりに、ああ読んだな、という印象であった。出たときに買っておいたのだが、ようやく本棚から取り出してきて読んだ。

この本の原著が書かれたのは、1981年。まだ、東西冷戦のまっただ中である。その時代を背景としてのスパイ小説の枠組みをかりながら、第二次大戦当時を舞台とした冒険小説になっている。

著者(ボブ・ラングレー)は、『北壁の死闘』で名前を知ったと覚えている。これが出たとき(創元推理文庫)、これはいいと思って読んだ。その後、いくつか翻訳が出て読んできたのだが、なぜか、この本『オータム・タイガー』は、読み落としていたようだ。1990年に初版が出て、今回(2016年)に新版となって刊行である。

どうやらこうなった背景には、訳者(東江一紀)が没したという事情があるらしい。このあたりのことは、巻末の「「解題」に代えて――東江一紀さんの思い出」(田口俊樹)に記されている。

東西冷戦も、第二次大戦も、ともの過去の歴史になってしまった。その歴史をどう語るかは別にしておいても、これらの時代を背景にして、幾多の冒険小説、スパイ小説が書かれてきたということは、確かなことである。そして、このような良質の冒険小説、スパイ小説というのが、なぜか日本では、育ってこなかったジャンルといえるのかもしれない。(ただ、私が、知らないだけなのかもしれない。それでも、学生の頃から、創元推理文庫、ハヤカワ・ミステリの類は、書店にいくたびごとに、のぞいていたものである。)

で、本作……正統派の冒険小説であると同時に、一級のスパイ小説にもしあがっている。そして、ある種の叙述トリックがしかけてある。あ、そうだったのか……となる結末。ただそれだけではなく、この小説のラストが非常に印象深い。冒険活劇を読んだ後だけに、しみじみと感じるものがある。

評価としては、『北壁の死闘』よりも、こちらの作品の方をおしておきたい気がする。それぐらいのおすすめの作品である。

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