『海辺の生と死』島尾ミホ2017-02-10

2017-02-10 當山日出夫

島尾ミホ.『海辺の生と死』(中公文庫).中央公論新社.1987(2013改版) (1974 創樹社)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2013/07/205816.html

この文章を書こうと思って、本を検索してみたところ、この作品は映画化されるらしい。が、私としては、

『狂うひとー「死の棘」の妻・島尾ミホー』.梯久美子.新潮社.2016
http://www.shinchosha.co.jp/book/477402/

を読んでみたい。その前に、島尾敏雄の作品、それから、島尾ミホの作品をあらかじめ読んでおきたい、そう思って手にしたものである。

『死の棘』については、すでに書いた。

やまもも書斎記 2017年1月26日
『死の棘』島尾敏雄
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/01/26/8333549

この『海辺の生と死』である。一読してであるが、なんと、清冽で純朴な叙情性をおびた文章であることよ……そして、島尾敏雄の『出発は遂に訪れず』と一緒に読むと、まさに、現代日本文学の奇跡とでもいうべき、男女の、夫婦の文学である。

読んで印象にのこる作品は、まず、『洗骨」である。

一度、埋葬した死者の骨をとりだして、洗ってきれいにして、また納める儀式。このこと、知識としては、南方(沖縄など)の風習として知ってはいたが、実際に、文章に詳しく書かれたのを読むのは、初めてである。

しかし、死者儀礼にまつわるような不気味さというようなものはまったくない。また、単なる民俗の記録という文章でもない。いってみれば、清らかな印象のある文章である。

この作品に代表されるような、南方(奄美大島)の生活、習俗、風習、生活といったものが、細やかで清潔感あふれる文章でつづられている。その一部始終が、少女の視点によりそって、叙情的に細やかな感性でつづられている。

それから、忘れてはならないのは、「その夜」という作品。これは、夫・島尾敏雄の書いた「出発は遂に訪れず」のことを、女性(後に結婚することになる)の立場から、描いている。

どちらを先に読んでもいいようなものかもしれないが、ともかく、両方の文章を読んでみることは、非常に興味がある。

この短編集『海辺の生と死』は、島尾ミホという希有な文学者の残した作品であると同時に、島尾敏雄の文学を理解するうえで、常に参照されるべきものである。

しかし、そんな講釈は抜きにして、この本はいいと思う。

今回の新しい中公文庫版には、吉本隆明の文章もおさめられている。「聖と俗ー焼くや藻塩のー」という、吉本隆明の南方文化論である。それから、解説を書いているのは、梯久美子。

『出発は遂に訪れず』も読んだが、この感想などはまた改めて。『狂うひと』は、買ってある。これから読むことにしよう。