『慟哭』貫井徳郎2017-02-25

2017-02-25 當山日出夫

貫井徳郎.『慟哭』(創元推理文庫).東京創元社.1999
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488425012

初出は、1993年の鮎川哲也賞候補。それを、文庫本化したものということになる。

あまりにも有名な作品であるが、なんとなく手にしそびれてきて今にいたってしまった。おくればせながら読んでおこうと思って読んだ次第。で、結果としては、やはり、世評にたがわず、読むに値する傑作である。

ただ、ミステリとして見たとき、ちょっと弱いと感じる点がないではない。しかし、それは、瑕瑾というべきものだろう。私としては、文句なしの傑作としておきたい。

東京近郊でおきる、幼女連続誘拐殺人事件。その捜査にあたる警察。そして、それと平行して語られる、ある男のストーリー。ふとしたことから、新興宗教に入信して、そのなかにのめりこんでいく。この二つの物語が平行して語られ、最後に合流するところで、「真相」にたどりつく。この意味では、ミステリの語りの常道をいっている。

この作品、北村薫が絶賛したよし。その観点からみると……本書のタイトル「慟哭」がそれを表している。なぜ、犯人はその犯罪を犯すにいたったのか、この経過が、本書の最終的なメッセージになる。

そして、それが説得力あるものとして描けるかどうか、そのように読めるかどうか、ここの解釈が、この作品の評価を分ける点になる。

ただ、蛇足を書けば……この作品の発表は、1993年の鮎川哲也賞において。新興宗教の起こした社会的事件といえば、言うまでもなく思い浮かぶのが、オウム真理教の事件。地下鉄サリン事件のあったのは、1995年。この作品が出てからのことになる。ここのところだけは、留意して読んだ方がいいかと思う。もし、1995年以降に書かれた作品なら、もうちょっと違ったものになったにちがいない。

さらに余計なことを書いておけば、トリックの基本はだいたい見抜ける。近年の日本のミステリになじんだ読者なら、だいたいの見当がつくはずである。だが、だからといって、この作品の評価が下がることはない。それは、やはり、犯行にいたる動機をどう描くか、というとことにかかわっている。これに納得する人は、高い評価をあたえることになるだろう。

貫井徳郎は、なんとなく読まずにきた作者なのであるが(たまたまである、別に嫌っていたわけではない)、これをきっかけにして、他の作品も読んでおくことにしようと思っている。