『脂肪のかたまり』モーパッサン2017-09-16

2017-09-16 當山日出夫(とうやまひでお)

モーパッサン.高山鉄男(訳).『脂肪のかたまり』(岩波文庫).岩波書店.2004
https://www.iwanami.co.jp/book/b248022.html

モーパッサンの小説を読んでいる。今回は『脂肪のかたまり』。これも、いろいろ訳が出ているようだが、岩波文庫版の新しいので読むことにした。

この作品、若いころに読んだかどうか、記憶がさだかではない。手当たり次第に乱読していった中にあったような気もする。が、まあ、憶えていないので、新しい本ではじめて読むと思って読んでみた。

時代背景……普仏戦争……を理解するためには、解説から読んでおいた方がいい。私のこのあたりの知識は、高校の時に習った世界史の授業の範囲をでるものではないので、このあたりについて、詳しく解説してあるのはありがたい。

『女の一生』や、短編小説集を読んでも感じたとであるが、風景、自然の描写と、その中でおこる人間ドラマが、実に興味深い。というよりも、風景、自然が、そのドラマの背景として、効果的に、印象的に描かれている。

そして、人間の観察のするどさ。人間のエゴイズム。だが、それを、なんとなくユーモアのある筆致でえがく見事さ。解説によると、モーパッサンは、この作品で世に出たということらしいが、それもうなづける。

小説という形式でもって人間を描く……このことに、最も成功している作家のひとりにちがいない。そして、小説という文学の形式がこれからも読まれ続けていくならば、モーパッサンの作品も、傑作として読まれ続けていくにちがいないと思う。