『モーパッサン短編集Ⅱ』(新潮文庫)2017-10-05

2017-10-05 當山日出夫(とうやまひでお)

モーパッサン.青柳瑞穂(訳).『モーパッサン短編集Ⅱ』(新潮文庫).新潮社.1971(2008.改版)
http://www.shinchosha.co.jp/book/201407/

新潮文庫のモーパッサン短編集の二冊目は、主に都市部を舞台とした作品群である。これも、面白い。

有名なところでは、『首かざり』が、この二冊目に納められている。この作品については、岩波文庫の『モーム短編選』の下の方の解説で、モームの作品と関連付けて論じられている。

ところで、問題となった宝飾品が本物か、偽物か、という点から、対をなす作品としては、同じ二冊目に入っている『宝石』という作品がある。これが、同じ冊にはいっているのも、興味深い。

やはり、この二冊目も、なにかしら「おち」のある作品となっている。そして、その背景になるのは、パリの市民の生活である。19世紀のパリの市民生活といえば、その最底辺を描いたものとしては、『居酒屋』(ゾラ)がある。

この『居酒屋』については、すでに書いた。
やまもも書斎記 2017年7月13日
『居酒屋』ゾラ
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/07/13/8619336

しかし、ここに収録されている作品は、そんなに最下層の住民を描いたというものではない。いわゆる都市の市民層というべきであろうか。ある程度のレベルの生活の人びとである。この意味では、今日の一般市民、庶民、の生活感覚に近いといえようか。

時代的背景は異なるのかもしれないが、しかし、現代にも共通するところのある、都市市民の生活の悲喜こもごもを、するどい人間観察の目で描いた作品は、充分に面白い。短編小説を読む楽しさ、また、市民生活を描くとはどういうことか、というようなことをここから、得ることができるように思う。今日に通じるところのある感覚で、読むことのできる作品群である。

歴史的な視点からみれば、都市のプチ・ブルジョアジーの生活描写ということになるのだろうが、それが、19世紀自然主義の視点で描写されている。人びとの人情の機微とでもいおうか。それが、なにかしら暖かみのある、しかし、自然主義文学としての冷静な視点から描かれていると思うのである。描き方によっては、冷酷ともなりかねないようなテーマであっても、その叙述は、どこか人間味のあるものになっている。これが、モーパッサンの作品の良さなのだろうと思う。