『モーパッサン短編集Ⅲ』(新潮文庫)2017-10-06

2017-10-06 當山日出夫(とうやまひでお)

モーパッサン.青柳瑞穂(訳).『モーパッサン短編集Ⅲ』(新潮文庫).新潮社.1971(2006.改版)
http://www.shinchosha.co.jp/book/201408/

新潮文庫のモーパッサンの短編集。三冊目は、普仏戦争に題材をとったもの、それから、怪異の話しをあつめてある。いうまでもないが、これも面白い。

普仏戦争といわれても、高校の世界史で習ったぐらいの知識しかない私には、今ひとつよくわからない……このあたりのことは、岩波文庫版の『脂肪のかたまり』の解説を読むとよくわかる。

やまもも書斎記 2017年9月16日
『脂肪のかたまり』モーパッサン
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/09/16/8677649

ともあれ、普仏戦争というできごとは、そのデビュー作とでもいうべき『脂肪のかたまり』を始めとして、モーパッサンにとって、創作の材料を多く提供してくれていることがわかる。戦争を題材にしているからといって、それを肯定しているというのでもないし、また、反戦論という立場でもないようだ。ただ、歴史上の出来事としてそのような戦争があり、そのなかで生きてきた人びとの人生の機微を描き出している。戦争そのものを描くというよりも、戦争があるなかでの人間の生き方の様々な面白みを、小説として描いているように思える。

それから、怪異小説というべき一群の作品。岩波文庫版『モーパッサン短篇選』のなかにもあった『水の上』、これなど、本当に怖い話しといっていいだろう。怖い小説というのは、何も、幽霊やお化けがでてくるものとは限らない。普通の日常の中にある、ふとしたことでおこる出来事の背景に、身も凍るような恐怖があったりする。

モーパッサンの短篇、新潮文庫版と、岩波文庫版と、両方読んでみた。他にもあるのだろうが、ともかくこれだけ読んでみて、19世紀フランス自然主義文学における人間観察の巧みさというものを感じる。登場するのは、特に高貴な人でもないし、また、逆に、社会の底辺にいる労働者というわけでもない。一般にいる人びと……農民であったり、都市の生活者であったり……である。現代社会における、一般の人びとの生活感覚に近いところを描いている。そのせいもあるのだろう、現代の目から読んでみて、比較的すんなりと作品世界のなかにはいっていける。あまり、時代、歴史的背景の違いというようなものを感じない。純然と、短編小説を読む楽しさというべきものがある。

たぶん、世界の文学のなかで、短編小説に限らないが、小説という形式で、人間を描いたものとして、モーパッサンの作品は、読まれ続けていくにちがいないと思う。

モーパッサンの影響、その系譜につらなる作家としては、モームがある。また、別の系譜には、チェーホフとかマンスフィールドがいることになる。これからの読書の楽しみとして読んでいこうと思っている。若い時に読んだ作品でも、年を経てから再読すると、また新たな感慨があるものである。