『明治天皇』(三)ドナルド・キーン2018-02-03

2018-02-03 當山日出夫(とうやまひでお)

ドナルド・キーン.角地幸男(訳).『明治天皇』(三)(新潮文庫).新潮社.2007 (新潮社.2001)
http://www.shinchosha.co.jp/book/131353/

続きである。
やまもも書斎記 2018年1月22日
『明治天皇』(二)ドナルド・キーン
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/01/22/8774280

三冊目である。この巻は、普通の日本史でいえば、憲法の制定から、日清戦争のころまで。三冊目まで読んで思うことなど、いささか。

第一は、閔妃暗殺の事件に一つの章をつかってあること。この事件のことをめぐっては、普通の日本史の教科書などでは、そう大きくあつかうことはないだろうと思われる。が、この事件は、日本の近代の歴史を考えるとき、はずせないことでもある。

というのは、この『明治天皇』という本は、確かに、明治天皇というひとりの君主の生涯を追っている評伝・歴史書ではあるのだが、同時に、その当時の世界における日本、特に東アジアにおける日本という観点をもって書かれているからでもある。日本だけから見た日本になっていない。(このあたり、ドナルド・キーンという外の目から見た日本であるということになる。今では、著者は、日本国籍であるが。)

第二は、上述のこととも関連するのだが、明治国家にとっての最大の課題として、条約改正を描いていることである。治外法権をみとめ、関税自主権が無い、という不平等条約の改正こそが、明治国家の最大の課題であったという視点がつらぬかれている。

思い起こせば、明治の初めの岩倉使節団の欧米への派遣も、条約改正を視野にいれての準備であったと記述されていた。

現在の日本は、不平等条約のもとにはない。(まあ、在日米軍の問題があるにはあるのだが。)だからであろうか、明治国家の最大の目標が、不平等条約の改正にあったということが忘れ去られてしまいがちである。だが、著者の立場からすれば、世界のなかにおける日本ということを考えるとき、諸外国とどのような条件で条約をむすんでいたのかは、最大の課題ということになる。

以上の二点が、第三巻を読んで強く印象にのこっているところである。

東アジアにおける日本を国際的な視点から見る……このことの一つのあらわれが、第50章「清国の「神風連」」かもしれない。中国近代史では義和団の事件である。このことにかなりのページがつかってある。

これは、幕末から明治にかけての日本の歴史……開国から明治維新……におけるナショナリズム、これを、東アジア全体の流れのなかにおいて見ようという発想からくるものだと思って読んだ。日本におけるナショナリズムの動きが、尊皇攘夷運動から明治維新にいたったとして、では、となりの中国ではどうであったか、義和団の件を軸に記述してある。中国では欧米列強の侵略に対してどう対応したのであろうか。

また、閔妃暗殺事件の流れの裏には、朝鮮におけるナショナリズムをめぐる様々な動きを無視できないとも読み取れる。それが、近代の日本との朝鮮との関係のなかで、不幸な事件をひきおこした遠因であるとも解釈できる。(直接的には、そのように書いてあるというのではないのだが。)

この本は、19世紀の日本、明治という時代を描きながら、同時に、東アジアの歴史における日本を見る視点の重要性を教えてくれる。このような歴史の視点は、まさに著者として人を得て書かれたというべきであろう。

追記 2018-02-17
この続きは、
やまもも書斎記 2018年2月17日
『明治天皇』(四)ドナルド・キーン
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/02/17/8789356

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの名称の平仮名4文字を記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/02/03/8781281/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。