『背教者ユリアヌス』辻邦生 ― 2018-04-26
2018-04-26 當山日出夫(とうやまひでお)
中公文庫版の新しい四冊を読み終わって、改めてこの作品をふりかえっておきたい。
やまもも書斎記 2018年4月7日
『背教者ユリアヌス』(一)辻邦生
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/04/07/8820656
やまもも書斎記 2018年4月14日
『背教者ユリアヌス』(二)辻邦生
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/04/14/8826026
やまもも書斎記 2018年4月16日
『背教者ユリアヌス』(三)辻邦生
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/04/16/8827443
やまもも書斎記 2018年4月20日
『背教者ユリアヌス』(四)辻邦生
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/04/20/8829727
前にも書いたが、私がこの小説を最初に読んだのは、高校生のときだった。単行本で出たのを買って、読んだのを憶えている。ほとんど何が書いてあったか忘れているのだが、最後のシーン……沙漠のなかをユリアヌスを失ったローマの軍団が行進していく……これは、強く印象に残っている。
文庫本で、四冊。千ページを超える大作である。読み終えて思うことなど書いてみたい。
辻邦生の作品に共通する文学的特徴としては、主に次の二点になるだろう。
第一には、その冷静な理知的な文章にある。この『背教者ユリアヌス』も、全体として見れば、波瀾万丈の大活劇……かなりの戦闘場面がある……なのだが、それよりも、作品全体を通じて流れる静謐さに、この作品の魅力がある。
ユリアヌスは、古代のギリシア、ローマの神々を信仰する。当時、ローマの国教であったキリスト教については、退けている。だが、これを読んで、反キリスト教的な印象はまったくない。古代のギリシア、ローマにユリアヌスがひかれるのは、それが、この世に生きてある喜びをたたえるものであり、また、理知的でもあるからである。
その古代のギリシア、ローマへの讃仰に通じる、理性的な判断、思索、それが、この作品全体のそこに流れている。
第二には、そのある種の芸術至上主義とでもいうべき考え方。それも、ただ実在するものとしての芸術作品への賛美ではない。それを目指す人間の生き方、意思に重きをおいている。
この小説でも、古代のギリシア、ローマの神々への信仰とともにあるのは、そこにある精神の高みを目指す人間の意思こそ貴いのであると、読み取れる。
以上の二点……作品に通底する理知的な静謐さと、精神の高貴さへの意思、これが、『背教者ユリアヌス』においても、作品の魅力となっている。
そして、さらに書くならば、この『背教者ユリアヌス』は、近代日本の小説のなかで傑出した叙事文学である、ということがあげられるだろう。四世紀の古代ローマを舞台にして、あえてキリスト教に反して、古代ギリシア、ローマの信仰をたたえ、さらには、ペルシアに攻め進んで、最期をとげる……そして、そのユリアヌスの生涯も、決して平坦なものではない……王家一族の反目と粛正、そのなかでかろうじて生きのびる、ガリア地方へ副帝としておもむき、なりゆきから皇帝に反旗をひるがえすことになる、が、それも結果的には、自身がローマ皇帝ということになり、理想のローマ国家建設を目指す、それもまた容易なことではなかった。波乱にみちた人生である。このような壮大な叙事文学は、近代日本の小説のなかでは、他に類を見ないかもしれない。
さて、次の辻邦生の作品というと『春の戴冠』になる。これは、まだ読んでいない作品。続けて読むことにしようか、時間のとれるとき、夏休みにでも読もうか、ちょっと考えているところである。また、『廻廊にて』のような初期の作品も読み返しておきたい。
やまもも書斎記 2018年4月7日
『背教者ユリアヌス』(一)辻邦生
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/04/07/8820656
やまもも書斎記 2018年4月14日
『背教者ユリアヌス』(二)辻邦生
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/04/14/8826026
やまもも書斎記 2018年4月16日
『背教者ユリアヌス』(三)辻邦生
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/04/16/8827443
やまもも書斎記 2018年4月20日
『背教者ユリアヌス』(四)辻邦生
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/04/20/8829727
前にも書いたが、私がこの小説を最初に読んだのは、高校生のときだった。単行本で出たのを買って、読んだのを憶えている。ほとんど何が書いてあったか忘れているのだが、最後のシーン……沙漠のなかをユリアヌスを失ったローマの軍団が行進していく……これは、強く印象に残っている。
文庫本で、四冊。千ページを超える大作である。読み終えて思うことなど書いてみたい。
辻邦生の作品に共通する文学的特徴としては、主に次の二点になるだろう。
第一には、その冷静な理知的な文章にある。この『背教者ユリアヌス』も、全体として見れば、波瀾万丈の大活劇……かなりの戦闘場面がある……なのだが、それよりも、作品全体を通じて流れる静謐さに、この作品の魅力がある。
ユリアヌスは、古代のギリシア、ローマの神々を信仰する。当時、ローマの国教であったキリスト教については、退けている。だが、これを読んで、反キリスト教的な印象はまったくない。古代のギリシア、ローマにユリアヌスがひかれるのは、それが、この世に生きてある喜びをたたえるものであり、また、理知的でもあるからである。
その古代のギリシア、ローマへの讃仰に通じる、理性的な判断、思索、それが、この作品全体のそこに流れている。
第二には、そのある種の芸術至上主義とでもいうべき考え方。それも、ただ実在するものとしての芸術作品への賛美ではない。それを目指す人間の生き方、意思に重きをおいている。
この小説でも、古代のギリシア、ローマの神々への信仰とともにあるのは、そこにある精神の高みを目指す人間の意思こそ貴いのであると、読み取れる。
以上の二点……作品に通底する理知的な静謐さと、精神の高貴さへの意思、これが、『背教者ユリアヌス』においても、作品の魅力となっている。
そして、さらに書くならば、この『背教者ユリアヌス』は、近代日本の小説のなかで傑出した叙事文学である、ということがあげられるだろう。四世紀の古代ローマを舞台にして、あえてキリスト教に反して、古代ギリシア、ローマの信仰をたたえ、さらには、ペルシアに攻め進んで、最期をとげる……そして、そのユリアヌスの生涯も、決して平坦なものではない……王家一族の反目と粛正、そのなかでかろうじて生きのびる、ガリア地方へ副帝としておもむき、なりゆきから皇帝に反旗をひるがえすことになる、が、それも結果的には、自身がローマ皇帝ということになり、理想のローマ国家建設を目指す、それもまた容易なことではなかった。波乱にみちた人生である。このような壮大な叙事文学は、近代日本の小説のなかでは、他に類を見ないかもしれない。
さて、次の辻邦生の作品というと『春の戴冠』になる。これは、まだ読んでいない作品。続けて読むことにしようか、時間のとれるとき、夏休みにでも読もうか、ちょっと考えているところである。また、『廻廊にて』のような初期の作品も読み返しておきたい。
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