『ファーストラヴ』島本理生2018-09-17

2018-09-17 當山日出夫(とうやまひでお)

ファーストラヴ

島本理生.『ファーストラヴ』.文藝春秋.2018
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163908410

今年、第159回の直木賞作品である。買って読んでみることにした。

この小説は、二つの物語が絡んで進行する。二つの家族の物語である。

第一に、主人公「私」(真壁由紀)を中心とする物語。臨床心理士である。ある刑事事件の「犯人」について、取材することになる。その「私」を軸にした、家族の物語。その夫とのなれそめ。また、その義弟との関係。ここには、複雑に屈折した女性の心理がある。

第二に、「犯人」である聖山環菜をめぐる事件の謎。何故、彼女は、父を刺したのか。取り調べで、彼女はこういう……「動機はそちらで見つけてください」、と。その謎をとくために、「私」は調査を開始する。その結果得られたものは、画家を父にもつ環菜という女性の生いたちからの謎であった。

このような二つの物語が絡まって、小説は語られる。

そして、最後に明らかになる結末……これが、以外とあっけない(私には)。たぶん、ここが、「理由はそちらで見つけてください」に対応するものであったならば……おそらく、直木賞にはなっていなかったであろう。(むしろ、芥川賞になっていたかもしれない。)

とはいえ、この作品、若い女性の心理描写が巧みである。夫と義弟との間で揺れ動く「私」の心のうちが、ふかく印象的に描写されていく。また、犯人が犯行におよんだ動機の解明も、その心のうちに入り込んでいくことになる。この心理描写の巧さが、受賞につながっているのだと思う。

ただ、私の好みをいえば、最後に明らかになる犯行の動機、これは、不明のままでもよかったのではないかと感じる。ここを謎のまま残すという書き方もできたであろう。だが、臨床心理士を主人公にしたこの作品では、そこに解答をあたえることになっている。

これはこれで小説の書き方、作り方であるとは思うが、人間の心、また、犯罪というものを文学的に描くとなった場合、何か物足りない気分が残ってしまう。

ともあれ、この作品、直木賞という賞にふさわしい作品にしあがっているとは思う。