『ダンス・ダンス・ダンス』(上)村上春樹2019-05-11

2019-05-11 當山日出夫(とうやまひでお)

ダンス・ダンス・ダンス

村上春樹.『ダンス・ダンス・ダンス』(上)(講談社文庫).講談社.2004 (講談社.1988)
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000203624

『羊をめぐる冒険』に続いて読んだ。

やまもも書斎記 2019年5月9日
『羊をめぐる冒険』(上)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/05/09/9070215

やまもも書斎記 2019年5月10日
『羊をめぐる冒険』(下)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/05/10/9070623

村上春樹を『1Q84』からさかのぼって読んできて、『風の歌を聴け』からまた順に読んでいる。これは、ある意味ではシリーズになっている。「僕」と「鼠」そして、「羊男」の物語である。

この作品の上巻を読んだところで思うところを書けば次の二点になるだろうか。

第一には、この作品も、また異界の物語であるということ。

北海道にあるドルフィン・ホテル、このホテルが、異界、あるいは、異界への入り口・境界である。ホテルの建物のなかのある階が、エレベーターを通じて、まるごと異世界に通じている。この世界のとなりにある、異次元の別世界でおこる奇妙な体験。そこに登場する謎の羊男。

この小説も他の村上春樹の作品と同様に異世界に通じている。

第二には、この作品中に出てくることばで言うならば「高度資本主義社会」である。

この作品は、1988年に世に出ている。東西冷戦の終結する直前の時代である。そのころの日本はどんなだったろうか。60年代の政治の季節が終わって、日本は高度経済成長を謳歌していた時代、だが、どことなく社会の不安……この今ある世界は本当は虚構のものなのではないだろうか、というような漠とした不安のようなものがあった時代、このようにいうことができるだろうか。

いや、これは正しくない。逆である。今の時代、二一世紀になってから、平成がおわり令和の時代をむかえようという今になって、昔を懐古して、1980年代を思ってみるならば、この小説がえがいたような、架空にただよっているような感覚にいたのではなかったかと、昔のことが思い出される。

また、さらに作中で出てくることばでいうならば「雪かき」である。80年代という時代は、今から振り返ってみれば、「雪かき」をしていた時代、ということになるのかもしれない。

この意味において、この『ダンス・ダンス・ダンス』は、時代を描いた作品である。

以上の二点が、上巻を読んで感じるところである。北海道の謎のホテルはどうなるのだろうか。そして、実在すると信じていたこの世界が、実はネガが反転した世界としてのポジであったことを予感させるこの小説のストーリーは、どこへ帰着するのであろうか。楽しみに次を読むことにしたい。

追記 2019-05-13
この続きは、
やまもも書斎記 2019年5月13日
『ダンス・ダンス・ダンス』(下)村上春樹
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/05/13/9071854