『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹2019-05-31

2019-05-31 當山日出夫(とうやまひでお)

中国行きのスロウ・ボート

村上春樹.『中国行きのスロウ・ボート』(中公文庫).中央公論新社.1986(1997.改版) (1983.中央公論社)
http://www.chuko.co.jp/bunko/1997/04/202840.html

続きである。
やまもも書斎記 2019年5月30日
『職業としての小説家』村上春樹
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/05/30/9078623

村上春樹の長編小説を全部読み切ったので、次に短編を読んでいる。『中国行きのスロウ・ボート』である。これは、村上春樹の最初の短編集。

読んだ印象を率直に述べれば……村上春樹という作家は、本来、短編小説作家なのではないだろうか、ということである。一般に、作家は、長編作家と短篇作家に別れる。村上春樹の場合、長編小説の方が有名だと思うのだが、短篇の作品も、少なくともこの作品集に収録のものについていえば、すごくいい。

長編小説だと、異世界の物語というイメージが強い。しかし、この短編集には、無論これが最初期の短編集であるということもあるのであろうが、異世界の物語という印象のものはない。それよりも、日常の生活をふと詩的な感覚で切り取って見せる、小説の手際があざやかである。

この作品集には、私は、何かしら詩的なものを感じる。ちょっと変な日常が描かれている。ちょっと変わっているのだが、この世界のどこにでもあるような、普通の日常感覚で読める。そして、読み始めると、ふとその小説世界のなかに入り込んでしまっていることに気付く。

最新の作品であれば、『騎士団長殺し』を書いた作家が、初期のころには、このような短編集を書いていたのか、これもまた一つのおどろきでもあり、発見でもある。文学を読む楽しみというのは、このような短編集を読むときに感じるものなのであろう。

追記 2019-06-01
この続きは、
やまもも書斎記 2019年6月1日
『カンガルー日和』村上春樹
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/06/01/9079512