『世界は村上春樹をどう読むか』2019-07-04

2019-07-04 當山日出夫(とうやまひでお)

世界は村上春樹をどう読むか

国際交流基金(企画)、柴田元幸・沼野充義・藤井省三・四方田犬彦(編).『世界は村上春樹をどう読むか』(文春文庫).文藝春秋.2009 (文藝春秋.2006)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167753894

続きである。
やまもも書斎記 2019年7月1日
『村上春樹を読みつくす』小山鉄郎
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/07/01/9110038

2006年におこなわれた、村上春樹をめぐる国際シンポジウム、ワークショップを書籍化したものである。参加者は、主に、世界各国の村上春樹の作品の翻訳者である。2006年の開催であるから、その時点における最新の作品というと『海辺のカフカ』ということになる。

この本から、いろいろなことを読みとることができよう。二つばかりあげておく。

第一には、村上春樹が世界中で読まれていることの確認である。今、村上春樹ほど世界中に翻訳され、そして、ベストセラーになっている作家は他にいないようだ。このことは、日本のなかにいて読んでいるだけではわからない。むしろ、外国に出かけて行って、現地の書店などを見ることによってはっきりわかるものである。

第二には、村上春樹の作品が読まれている理由として、「日本的」か、そうでないか……このような問いかけが無意味な状況にあることである。谷崎潤一郎や川端康成などは、きわめて「日本的」な作家として外国で読まれている(これは、納得できることである)。だが、村上春樹の人気において、「日本的」ということは、さほど意味がないように感じられる。しかし、同時に、村上春樹の作品は、まごうことなき日本の文学として読まれている。

以上の二点ぐらいが、この本を通して理解されることだろうか。

他に私の興味、関心をひいたところとしては、登壇した各国の翻訳者に、その翻訳本の装丁について語ってもらっているところ。私が外国の文学の翻訳を読むとき、原書がどのような装丁で出版されていたものなのか、あまり気にすることがなかった。日本においては、主に出版社がそれを決めてしまうもののようだ。

海外ミステリは、読むことが多いのだが、その場合、東京創元社とか早川書房とかの、編集の方で装丁が決まる。場合によっては、日本語のタイトルも、(原題とは異なって)出版社の判断でつけることがある。

また、ことばの研究者のはしくれにいるものとしては、「翻訳」の問題について、かなり興味深い指摘がいろんなところにあった。ただ、村上春樹自身は、自分の作品の「翻訳」ということについては、かなりおおらかな態度で臨んでいるらしい。

村柿春樹の文章(日本語)は、非常に分かりやすい。しかし、読んでいると、このままでは外国語に訳すのは難しいのではないだろうか、と感じるところがあったりもする。しかし、そのようなところは、各国の翻訳者が、それなりの工夫をして翻訳をしている、その手のうちのようなものが、紹介されていて、このあたりは、非常に興味深く読んだところである。

ともあれ、村上春樹が、世界的に読まれるようになったのは、おおむねベルリンの壁の崩壊に象徴される世界の激変の後である。それをはさんで、喪失感、虚脱感というべき感覚がひろがる。これを、私なりにいえば、分かりやすかった大きな物語の終焉である。そして、そこにぴったりと合わさってきたのが、村上春樹の文学であったということなのだろう。その村上春樹の文学作品は、異界、影、夢、鏡……といった、文化人類学、民俗学などにおいて、普遍的に、より根源的に語られることの多い記号(私は、このことばを使うのはあまり好きではないのだが)で、より大きく深い人間の物語を提示している、このように理解している。(とりあえず、今のところの私の村上春樹理解はこんなところである。)

さて、次は村上春樹の翻訳を読むことにする。まずは、『ロング・グッドバイ』である。

追記 2019-07-05
この続きは、
やまもも書斎記 2019年7月5日
『ロング・グッドバイ』村上春樹訳
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/07/05/9111495

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