『鷲は飛び立った』ジャック・ヒギンズ2019-10-05

2019-10-05 當山日出夫(とうやまひでお)

鷲は飛び立った

ジャック・ヒギンズ.菊池光(訳).『鷲は飛び立った』(ハヤカワ文庫).早川書房.1997 (早川書房.1992)
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/30835.html

村上春樹のエッセイで『鷲は舞い降りた』が登場したので読みたくなって読んだ。その次に、この続編を読むことにした。

やまもも書斎記 2019年10月4日
『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/10/04/9160917

この作品を読むのは、少なくとも二回目になるはずである。『鷲は舞い降りた』は既に読んでいて、その後、この『鷲は飛び立った』が刊行になったとき、買って読んだのを憶えている。その本も、探せばどこかにあるはずだが、今回は、文庫本を新しく買って読むことにした。

シュタイナー中佐は生きていた(これは、書いていいことだろう)。そのシュタイナー中佐を、英国から脱出させて、ドイツにつれてかえる。そのミッションにいどむことになるのが、デヴリンである。IRAの一員として、『鷲は舞い降りた』でも活躍していた。そのデヴリンが、むしろこの作品では主な登場人物となる。

読んで(再読になるが)の印象としては、やはりジャック・ヒギンズの作品だな、と感じさせるところがある。

思うところとしては、次の二点ぐらいを書いておきたい。

第一に、戦争というものを、距離を置いて見ている視点である。人間は戦争を起こす、その一方で、戦争という状況の中に人間はいる。その人間のあり方を、ゲームをしているかのごとく見る視点がある。ここに、戦争冒険小説とはいいながら、どこかニヒルな感じがありもするし、また、そこから独自のヒューマニズムも生まれている。

第二に、第二次世界大戦をめぐる諸相である。単に、アメリカやイギリス……勝った側……から、ドイツ=悪、と決めつけていない。アメリカやイギリスにおいても、ドイツに肩入れする人びとがいた。また、ドイツ内部においても、ナチスに対して反感を持つ人びともいる。これは、『鷲は舞い降りた』でも同様であったと思うのだが、この作品になって、よりその色模様は錯綜したものになっている。

以上の二点が、読んで思うことなどである。

さらに書けば、戦時下の英国のロンドンからの脱出劇をメインとしながらも、その背景にあるドイツ内部での反ヒトラーの権謀術数が進行することになる。結局、シュタイナー中佐を英国から脱出させるのは、何の目的であったのか、その最終目的をめぐって、小説は進行することになる。このあたり、歴史の大局を視野にいれた、戦争冒険小説になっている。

さて、久々にジャック・ヒギンズを読んだつぎは、村上春樹にかえって、そのエッセイと翻訳を順番に読んでいくことにしたい。