『太平記』岩波文庫(一)2020-01-20

2020-01-20 當山日出夫(とうやまひでお)

太平記(1)

兵藤裕己(校注).『太平記』(一)(岩波文庫).岩波書店.2014
https://www.iwanami.co.jp/book/b245752.html

『太平記』を読んでおきたいと思って読んでいる。

理由としては、岩波文庫の太平記(兵藤裕己校注)が、六冊揃って刊行になっているということがある。これは、それぞれ出たときに買っていって、揃えて持っている。

また、この岩波文庫本の刊行をうけてのことだろうが、『アナホリッシュ國文學』が「特集:太平記」を刊行した。これを読んでみたいと思った。

持っている本として、すでに本棚にある本では、

兵藤裕己.『太平記〈よみ〉の可能性』(講談社学術文庫).講談社.2005

若尾政希.『「太平記読み」の時代』(平凡社ライブラリー).平凡社.2012

などがある。これらの本も、読んでおきたいと思ったこともある。

『太平記』であるが……若いころ、岩波の古典大系本で、手にとったことはある。そのとき……若い時……どうにも退屈な物語だなと感じたのが正直なところ。しかし、この歳になって、新しい岩波文庫で読んでみて、こんなにも面白い物語だったのかと認識を新たにしたところがある。

出てくる武将たちの行動、精神、それをとりまく大きな歴史のながれ……これらが、実に興味深い。とにかく読んでいて面白いのである。

それは、一つには、出てくる文章の装飾的な引用など、和漢の故事に言及したところが多いのだが、これらについて、これまでの勉強で、どこかで見たことがあるものが多くなってきたということもあるのかと思う。この故事や引用は、見た記憶ががある、というものが多くなってきた。また、同時に、そのような引用があっても、特にその典拠を原典にあたって調べながら読もうという気が、もうなくなってしまった、ということもある。ただ、読んで楽しみたい、そのように思って読むようになった。

第一冊目(第一巻から第八巻をおさめる)を読んで思うことは次の二点ぐらいだろうか。

第一に、登場人物……主に武士であるが……の、行動の根底にあるもの……エトスと言ってもいいだろうか……が、面白い。非常に功利的、実利的に判断して行動している面がある。その一方で、忠義という理念のために行動する、戦う、自害する。また、さまざまに計略をめぐらす。これらの武士の行動が、躍動的である。

第二に、これは、『平家物語』などと比べての印象になるのだが……登場人物たちの行動が、論理的という印象をもつ。これは、現代の人間の論理とは異なるのは無論だが、『平家物語』や『今昔物語集』などの登場人物に比べて見るならば、格段に論理的な判断力と、説明がある。これは、やはり、一四世紀、中世も後半になって、人びとのものの考え方が変わってきたな、と思わせるところがある。だからといって、その人びとの行動規範に、素直に共感できるというのではない。やはり、そこは、時代の隔たりというものを感じる。

以上の二点が、第一冊を読んで思うことなどである。

『平家物語』も、二〇一九年になってから改めて全巻を通して読んだ。岩波文庫で四冊。これを思い返してみると、『平家物語』は、まだ、どこか「もののあはれ」を感じさせる文学である。だが、『太平記』には、それが無い。このあたりも、時代の流れ、潮流というものを感じる。

ところで、『太平記』は、近世から近代……戦前……までは、広く読まれた作品であるが、近年は、あまり読まれないようだ。これも、「古典」とは何であるかという問題とも関連して、考えてみたいことのひとつである。

2019年12月7日記

追記 2020-01-27
この続きは、
やまもも書斎記 2020年1月27日
『太平記』岩波文庫(二)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/01/27/9206987