『錦』宮尾登美子2020-02-20

2020-02-20 當山日出夫(とうやまひでお)

錦

宮尾登美子.『錦』(中公文庫).中央公論新社.2011(中央公論新社.2008)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2011/11/205558.html

続きである。
やまもも書斎記 2020年2月14日
『序の舞 下』宮尾登美子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/02/14/9213622

ちょっと時間が空いてしまったが、宮尾登美子の作品の主なものを読んでおきたいと思って、続けて読んでいる。この本、外出の時に読もうと思って読んでいたせいもあって、意外と読むのに時間がかかってしまった。前半までは、ちょっとづつ読み、後半になってから、残りをほぼ一気に読んだ。

この作品は、龍村がモデルである。主人公は、吉蔵(ただ、小説では、「土口」の字を使っている。その他の箇所では、通常の「吉」(士口)の字が使ってあるので、著者は意図的に、人物名の場合だけ、使い分けている。)宮尾登美子の作品、これまでに読んできたものは、基本的に女性が主人公の場合が多かったのだが、この作品は男性である。

その吉蔵の幼いときの京都の西陣での商いのあたりから小説ははじまる。そして、美術織物として、名をなしていくプロセスが丹念に描かれる。最終的には、法隆寺や正倉院に伝来してきた錦の復元製作にたずさわり、皇族(宮家)にその作品をおさめるあたりのところまで、その人生の一代記となっている。

この作品を読んで感じることは、この主人公(吉蔵)が、織物にかける情熱は人一倍のものがある一方で、家庭生活、個人の生活の面では、かならずしも、謹厳実直とはいいがたいところがある。大阪に妻がありながら、同時に、東京で、妾を生活させている。この吉蔵と、それをとりまく、幾人かの女性……むら、ふく、仙……この女性の存在が、吉蔵の人生に陰影を与えている。

織物の分野においては、成功したことになる菱村の吉蔵という人物の物語でありながら、その人生の影にあった、女性たち、そして、病を描いている。これこそが、宮尾登美子の文学ならではの魅力であると感じる。

2020年2月18日記

追記 2020-03-21
この続きは、
やまもも書斎記 2020年3月21日
『岩伍覚え書』宮尾登美子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/21/9226471

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