『オンブレ』エルモア・レナード/村上春樹訳2020-06-05

2020-06-05 當山日出夫(とうやまひでお)

オンブレ

エルモア・レナード.村上春樹(訳).『オンブレ』(新潮文庫).新潮社.2018
https://www.shinchosha.co.jp/book/220141/

ひさしぶりの村上春樹の翻訳である。

そういえば、昔は、映画でもテレビでも「西部劇」というのがあった。思い浮かぶところでは、「荒野の七人」や「荒野の用心棒」など、それから、「ローハイド」も思い浮かぶ。いったいいつごろから、「西部劇」というのが無くなってしまったのだろうか。

『オンブレ』は、「西部小説」というジャンルになるらしい。(村上春樹の解説による)。文学、小説の世界でも、「西部」を舞台にした作品が書かれた時代があった。それも、映画やテレビと同様に、今では廃れてしまったらしいが。

解説によると、『オンブレ』は、一九六一年の作ということである。私のこどものころであり、まさにこの時代、映画やテレビで「西部劇」がさかんに作られていた時代ということになる。

ともあれ、村上春樹の翻訳を読んでみようということで読んでみた作品である。もし、村上春樹が訳していなければ、手に取ることもなく終わってしまったかもしれない。そして、これは、傑作であると言っていいだろう。読んで面白い。まさに「西部劇」の面白さに満ちている。

ところで、日本では、時代小説というジャンルはいまだに健在である。現役の作家によっても書かれているし、故人となってしまったが、藤沢周平の作品なども、読まれ続けている。ただ、テレビドラマなどでは、時代劇は、もう亡んでしまったと言ってもいいかもしれない。かろうじて、NHKが細々と製作しているぐらいだろうか。

たぶん、「西部劇」「西部小説」というジャンルが衰退してしまったのは、PC(政治的な正しさ)への配慮ということもあるにちがいない。アメリカの歴史を、先住民からすれば侵略者である白人の視点から描くということは、今では流行らないことになってしまっている。

このような時代の流れを感じながらも、この『オンブレ』という小説は、エンタテイメントとしてすぐれている。このような面白い小説を発掘して翻訳してくれている村上春樹の仕事は、小説家としての仕事とは別にして、評価されてもいいのではないかと思う。

2020年6月4日記