『風と共に去りぬ』(一)マーガレット・ミッチェル/岩波文庫2020-06-08

2020-06-08 當山日出夫(とうやまひでお)

風と共に去りぬ(1)

マーガレット・ミッチェル.荒このみ(訳).『風と共に去りぬ』(一)(岩波文庫).岩波書店.2015
https://www.iwanami.co.jp/book/b247593.html

この訳で、『風と共に去りぬ』を読むのは二度目である。これまで、『風と共に去りぬ』は、三回読んでいる。旧訳の新潮文庫版。新訳の新潮文庫版。そして、岩波文庫版である。たしか、新訳の新潮文庫版と、岩波文庫版は、同じ年の同じころに同時に刊行になったと覚えている。これは、両方とも買って、順番に読んでいった。

『戦争と平和』(トルストイ、岩波文庫)の六冊を読み終えて、さて次に何を読もうかと思って、思い浮かんだのが、『風と共に去りぬ』である。これも、岩波文庫で六冊になる。数年ぶりの再読(四回目)になるのだが、読むことにした。

第一冊目を読んで思うことは、次の二点ぐらいだろうか。

第一には、すでにこの本は読んで内容は知っている。その目でさらに読むことになる。そう思って読むせいかもしれないが、この小説は、敗れた側(南部)の歴史を描いている。勝った側(北部)のことは、ほとんど出てこない。

基本的に、歴史は、戦いがあれば、勝った方の視点で描かれるものである。それを、この小説は、歴史的背景としては、敗れた南軍の方に視点をおいている。このことが、この小説を魅力的なものにしている大きな要因になっていると、改めて読んで感じるところである。

第二には、これも、これまで読んで分かっていることであるが、南部における黒人奴隷の差別を描いている。時代設定として、南北戦争の時代の南部を描くことになっているので、黒人奴隷が登場するのは、当然である。が、それ以上に興味深いのは、黒人奴隷でも、屋敷づとめをするもの(屋敷奴隷)と、野外ではたらくもの(畑奴隷)との間に、さらに差別意識のあったこと。さらに、その黒人奴隷よりも下層に位置づけられるものしてあった、貧乏な白人の存在。

これら、重層的な差別の構造を、この小説は描き出している。この小説が書かれたのは、一九三六年である。第二次世界大戦の前である。今日のような人権意識がひろまる前の作品ということになる。そのことは考慮して読む必要はあるが、それでも、この小説に描かれたような複雑な差別の構造が、かつてのアメリカ社会のなかにあったことは、改めて認識しておく必用があるように思われる。

以上の二点が、『風と共に去りぬ』を、再度、再々度、読みなおしてみて感じるところである。

さらに書いてみるならば、この小説の魅力になっているのは、何よりもヒロインのスカーレットの人物像にある。ただ、小説を読んでも、映画のイメージをどうしても強く感じてしまうところがあるのだが。

それから、随所に出てくる自然描写が美しい。南部の農園の風景、木々や花々の描写を背景として、登場人物たちが描かれる。

また、第一冊目を読んで思ったことであるが、この小説には、宗教のことがほとんど出てこない。読んでいくと、カトリックのお祈りのシーンなどはあるのだが、その宗教性が、この小説の大きな筋にからんでくるということはないように感じられる。スカーレットの人物造形のなかにも、宗教という要素は感じられない。(これは、『戦争と平和』を読んだ印象が強いから、特にそう感じるところもあるのかもしれない。)

ただ、これも、今日の日本の感覚で読むからのことである。第一冊の解説には、スカーレットがアイルランド系であること、それから、カトリックの信仰を持っていることの、歴史的、社会的な意味が詳しく解説してある。これを読むと、なるほど、そのような背景があっての描写なのであるかと気付くところがある。また、アイルランド系であるということも、社会的な差別の要因でもあったことが、理解される。

続けて第二冊目を読むことにしたい。

2020年5月24日記

追記 2020-06-12
この続きは、
やまもも書斎記 2020年6月12日
『風と共に去りぬ』(二)マーガレット・ミッチェル/岩波文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/06/12/9256641