『日本思想史』末木文美士2020-09-18

2020-09-18 當山日出夫(とうやまひでお)


末木文美士.『日本思想史』(岩波新書).岩波書店.2020
https://www.iwanami.co.jp/book/b492574.html

これは出た時に買った本なのだが、しばらく積んであった。最初の方だけ読んでみて、なるほどと思う反面、ちょっとつまらないかなと感じるところが半分、ということで、置いたままになってしまっていた。夏休みの時間のとれるときにと思って、最初から、再度読みなおしてみた。

正直言って、なんとなく味気ない。たしかに、「日本思想史」というテーマで、目一杯のことを詰めこんで書いてあるという印象はある。そのせいか、結果として、なんとなく、教科書的な事項の羅列になってしまっているということになる。

だが、これも、視点を変えて見るならば、自分の知識の整理、確認という意味では、読んでいて、勉強になる本である。ときには、このようなこと、人物、言説があったのかと、改めて気付くところがあったりもする。

ただ、この本の冒頭に掲げてあること……日本の思想を、「神仏」と「王権」で読み解く、時代区分としては、古代から近世まで、明治から昭和戦前まで、戦後から今日まで……このような整理のしかたをこころみていることになるのだが、はたして、これが成功したかどうかとなると、どうもそうは思えない。「神仏」「王権」はまあ、そのような見方もあるかとは思うが、時代区分については、どうかと思う。近現代についても、その底流にあるものを古代からの流れのなかで考えるべきではないだろうか。あるは、明治以降の近代というものも、近世からの連続として考える歴史の考え方もあるだろう。

そうはいっても、この本が一定の水準にあることはたしかである。私の専門でわかる範囲のこと、日本の文字についての記述、仮名の成立とか、漢文訓読とか、これは、基本的に通説にしたがって書いてある。そう逸脱した独自の見解が示されているということはない。(だが、より専門的な目で見るならば、この本の記述の範囲は、あくまでも通説の範囲をこえるものとはなっていない。)

このような意味では、一定の信頼をおいて読んでいい本だというのが、印象として残ることである。知識の整理という観点からは、よく書けている本だと思う。

2020年9月16日記