『幸福について』ショーペンハウアー/鈴木芳子(訳) ― 2020-10-09
2020-10-09 當山日出夫(とうやまひでお)
ショーペンハウアー.鈴木芳子(訳).『幸福について』(光文社古典新訳文庫).光文社.2018
https://www.kotensinyaku.jp/books/book268/
『文学こそ最高の教養である』の本である。
ショーペンハウアー、あるいは、ショーペンハウエルは、名前はむろん知ってはいるが、これまで手にとることはなかった。ただ、「デカンショ」として、知っていた名前ということになるだろうか。そのせいか、昔の教養主義の親分のような感じがして、なんとなく遠ざけてしまっていたというのが、正直なところである。ただ、『読書について』などの著作が広く読まれていることは、知識としてはもっていた。
この『幸福について』であるが、はっきりいって、よく分からないというのが、本当のところかもしれない。それは、ショーペンハウアーの考えている「幸福」ということと、現代、二一世紀の今日において考える「幸福」というのが、どうも微妙に違っているせいだろうかと思う。
とはいえ、読んでなるほどと思うところがいくつかある。
「心の真の深い平和と完全な心の安らぎ、健康に次いで最も貴重な地上の財宝は、孤独のなかにしかなく、持続的気分としては、徹底した隠棲のうちにしか見出すことができない。」(pp.225-226)
この本を読んで違和感を感じるところがあるとしたら、たぶん、この本が一九世紀のドイツの読者を相手に書かれていることに起因するのだろう。名誉について論じたところとか、女性のあり方について言及したあたりのところは、ちょっと今日の価値観からすれば、素直には受け入れがたいところを感じないではない。
最も深く共感するのは、第六章「年齢による違いについて」かと思う。今よりは、ずっと人びとの平均寿命が短かった時代ではあるが、それでも、老年、老い、というものをどう考えるかというのは、人間にとって幸福とはなにかを考えるうえで、重要なテーマである。この章を読んで、そういうものなのであろう、と深く共感するところがある。
このあたりが、この本が古典として、今なお読まれ続けているゆえんであろうか。確かに、書かれた時代的制約のようなものを感じはするのだが、それを越えて、人間の一生というものに、深く考察をめぐらせている。
まあ、私も、この年になって……還暦をとうにすぎた……このような本を読んでいられるというのも、幸福といっていいのだろうと思う。
2020年9月20日記
https://www.kotensinyaku.jp/books/book268/
『文学こそ最高の教養である』の本である。
ショーペンハウアー、あるいは、ショーペンハウエルは、名前はむろん知ってはいるが、これまで手にとることはなかった。ただ、「デカンショ」として、知っていた名前ということになるだろうか。そのせいか、昔の教養主義の親分のような感じがして、なんとなく遠ざけてしまっていたというのが、正直なところである。ただ、『読書について』などの著作が広く読まれていることは、知識としてはもっていた。
この『幸福について』であるが、はっきりいって、よく分からないというのが、本当のところかもしれない。それは、ショーペンハウアーの考えている「幸福」ということと、現代、二一世紀の今日において考える「幸福」というのが、どうも微妙に違っているせいだろうかと思う。
とはいえ、読んでなるほどと思うところがいくつかある。
「心の真の深い平和と完全な心の安らぎ、健康に次いで最も貴重な地上の財宝は、孤独のなかにしかなく、持続的気分としては、徹底した隠棲のうちにしか見出すことができない。」(pp.225-226)
この本を読んで違和感を感じるところがあるとしたら、たぶん、この本が一九世紀のドイツの読者を相手に書かれていることに起因するのだろう。名誉について論じたところとか、女性のあり方について言及したあたりのところは、ちょっと今日の価値観からすれば、素直には受け入れがたいところを感じないではない。
最も深く共感するのは、第六章「年齢による違いについて」かと思う。今よりは、ずっと人びとの平均寿命が短かった時代ではあるが、それでも、老年、老い、というものをどう考えるかというのは、人間にとって幸福とはなにかを考えるうえで、重要なテーマである。この章を読んで、そういうものなのであろう、と深く共感するところがある。
このあたりが、この本が古典として、今なお読まれ続けているゆえんであろうか。確かに、書かれた時代的制約のようなものを感じはするのだが、それを越えて、人間の一生というものに、深く考察をめぐらせている。
まあ、私も、この年になって……還暦をとうにすぎた……このような本を読んでいられるというのも、幸福といっていいのだろうと思う。
2020年9月20日記
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