『すばらしい新世界』オルダス・ハクスリー/黒原敏行(訳)2020-10-30

2020-10-30 當山日出夫(とうやまひでお)

すばらしい新世界

オルダス・ハクスリー/黒原敏行(訳).『すばらしい新世界』(光文社古典新訳文庫).光文社.2013
https://www.kotensinyaku.jp/books/book170/

この作品、オーウェルの『一九八四』とならび称せられるディストピア小説とのことである。『一九八四』の方は、若いときに手にした記憶があるのだが、こちら『すばらしい新世界』については、未読であった。『文学こそ最高の教養である』の本を読んでいこうと思って、読んでいくなかで読むことになった。

はっきりいってよく分からない小説というのが、正直な感想。文庫本の解説を読み、『文学こそ最高の教養である』の該当箇所を読みなおしてみて、ようやく作品の輪郭がつかめるか、といったところである。

この作品で描かれた未来社会……これを今の時代において考えるならば、AIが社会のメインの部分を支配するようになってしまう社会を考えてみることができるかもしれない。人間は、自らの意志と判断で考えることをしなくてもいいようになる。そこで、自分の考えを語ろうものなら、異端者として排斥されかねない。このような読み方は、かなり牽強付会であるとは思うのだが。

作品に描かれたような社会の様相をふと思ってしまう。この作品は、アメリカのT型フォード生産のシステムが延長されたところに何があるのか、ということを描こうとした作品らしい。とはいえ、作者は英国人である。未来社会についてのディストピア小説は、まさに、それぞれの時代において多様に解釈できるだろう。今の時代であるならば、キーになるのは、まさにCOVID-19でありAIであるのかもしれない。あるいは社会の分断とグローバリズムでもあるだろう。

ただ、少なくとも、人間とは何か、社会とは何か、ということについての、するどい批判のまなざしを、この作品には感じる。それを具体的に、世の中のどのようなことがらを念頭に考えてみるかで、この作品の解釈は変わってくるだろう。

作品を読んでから、『文学こそ最高の教養である』を読みかえしてみたのだが、この作品のところは翻訳論としても面白い。この訳者の訳した他の作品とか読んでみたくなった。また、若いときに読んだ『一九八四』についても、再読してみたいと思う。

2020年10月29日記