『漂流船』メルヴィル/牧野有通(訳)2020-11-02

2020-11-02 當山日出夫(とうやまひでお)

書記バートルビー

メルヴィル.牧野有通(訳).『書記バートルビー/漂流船』(光文社古典新訳文庫).光文社.2015
https://www.kotensinyaku.jp/books/book215/

『文学こそ最高の教養である』の本。メルヴィルの二作目である。

読み始めて、奇妙な印象を受ける。そして、あるいはひょっとしてという予想が生まれる。(そして、その結果は、その予想のとおりであったのだが。)

アメリカ文学において、黒人、なかんずく、黒人奴隷という存在がどのように文学作品で描かれてきたのかを、考えるときには、おそらくこの作品はかならず参照されることになるにちがいない。まさに黒人奴隷の時代に、このような作品を書いていたメルヴィルとう作家の慧眼は、すばらしいという印象がある。

また、翻訳もいい。えてして、文学に登場する黒人奴隷というと、奇妙な方言のようなことばを使うように訳されることが多い。これは、現代の日本語学の概念としては、一種の役割語ということになる。しかし、この文庫の翻訳では、そのような訳を採用していない。たしかに、身分の上下関係という役割を反映した日本語にはなっている。

これは、この光文社古典新訳文庫の方針らしい。アメリカにおいて、確かに黒人英語というべきことばがあることは確かなのだろうが、それを文学作品の翻訳において、どのような日本語に対応させるべきなのかは、いろいろと考えてみると難しい問題がある。

ともあれ、この『書記バートルビー』『漂流船』の二作は、『白鯨』で持っていたメルヴィルへのイメージを大きく変えるものになっている。

2020年10月31日記

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